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桜舞う屋上で

昔書いた小説です。


連載の方が地味目なんで、ちょっと恋愛風味なものを載せて見ました。


楽しんで頂けたら幸いです。

「好きです。付き合ってください」

 

屋上に上がったとたん、後ろから付いて来た女の子にそう言われた。

……何だろ?この突然さは?そう思いこめかみに手を当てながら考えていると、またも声がかけられた。


「相田草一さんですよね?」


確かに僕の名前は、相田草一。間違いではない。

別段、何も特徴がなく、ごく普通の一般生徒である。

それは多分、友人、知り合い、先生、親、誰に聞いても普通と答えられるであろう。

身長、容姿、成績諸々である。


さらに言うなら、陽稜高校には、相田草一という人間は僕しかいない。

その為、名前を言われたからには、振り返らないわけにはいかないだろ。

振り返り、声をかけた女の子を見てみる。

……知らない子だ。


ぱっ、と目に付いたのは、その綺麗な髪だった。

背中までかかる黒髪は艶があり、穏やかな風にさらさらと流れていた。

さらに、日の光を浴びて緑色に淡く輝いている。

眉は細く整っており、目は大きく二重、睫毛は長く光に彩られている。

鼻立ちはしっかりしており、唇はふっくらしている、何も塗っていなくても艶があった。


顔は小さく全ての部位が整っていた。

背は160ぐらい体つきは細く、モデルのようにすらっとした体型で、スカートから覗く足は長く細い。


美人という部類にまず間違いなく入るだろう。

しかし、さっき言ったように見たことがない。


僕がそんなことを考えていると、女の子はおずおず聞いてきた。


「あの……相田…草一…さん………です…よね…?」


さっきよりもか細い声に少しだけ罪悪感にとらわれる。

それを振り払うかのように僕は彼女に聞いた。


「うん。確かに僕は相田草一だけど。………どうして知っているの?」


正直場違いかなと思ったけれど、自分の疑問を素直に彼女に聞いてみた。

いきなり誰とはいえなかったので、何となく情報を聞き出そうかなと思った。


「あ、突然すいません。私、七花すみれって言います。あの、あの、…相田さんのことは友子ちゃんから聞いたんです」


七花すみれ?名前を聞いても、やはり思い出せなかった。

その代わり、もう一人の名前に対し引っかかりを覚えた。


「友子ちゃん?」


思わずその名前を口にしてしまう。


「はい。牧野友子。相田さんの知り合いですよね」


牧野友子。確か僕の知り合いだ。というか幼馴染というか

血の繋がらない妹というか…、少々複雑な間である。


しかし、これで二つ目の情報が得られたわけだ。

友子の知り合い(友人?)となれば、一年生である。

どうりで、僕は彼女を知らないわけだ。


「そっか、あいつの友達か。でも僕、七花さんと顔合わせたことないよね?」


そう、僕は友子の友達に合ったことがない。

昔は多少あったが、僕が高校に入学して、友子の親父さんとウチのお袋が結婚してから

彼女は牧野友子として一人で暮らしている。別に仲が悪いわけではない。

週に何度かは家にきて食事を作ってくれたりしている。

ただ、彼女は人目や世間体など色々気にしすぎるのだ。

しかし別に他人のことに敢えて口を出すことではないので

僕はそのことに関してはまったく関与していない。


で、僕が言ったように彼女の知り合いならば、僕は顔を合わせたことが無い筈である。


「ええ、確かに相田さんの仰る様に、直接お会いしたことは一度もありません。ですが…」

「ですが?」

「二度ほど、写真を見た事があります」

「写真?」

「はい、高校一年のときの文化祭と体育祭の写真です」


その言葉に僕はなるほど、と思った。

そう言えば、あの時は珍しがっておじさんとお袋の二人とも来ていたな。

その写真か。


まあ、これである程度、問題が解決できたわけだ。

で、最初の言葉だな。


「そうか、成る程。大体、事情は把握できたよ。で、一番最初に戻るわけだ」


僕の言葉に、最初何の事か分からず、えっ、としていたが

思考が追いついたのか顔を赤くして俯いてしまった。


それでも何とか、小さい声で最初の言葉を口にしてくれた。


「えっと、相田さん……その…好きです……私と…付き…合って……くだ…さい」


最後のほうは、小さくて聞こえなかったけれど、それでも、彼女は勇気を出したんだ。

最初の勢いだけの告白ではなく、僕と顔を向き合わせて状態で、精一杯の気持ちを伝えたくて。

その言葉と仕草に自然と顔が綻んできた。

胸に暖かいものを感じ、七花さんの体の前で力いっぱい握られている

彼女の手を優しく取って胸のあたりまで上げた。

その手は柔らかく、彼女の体温が感じられた。

緊張で少し体温が上がっているんだろうか?

そんな事を考えながら、それでも少し暖かい手の温度が心地よかった。


そして、手を開いてあげて優しく握手をした。

この短い時間で、僕は彼女にすっかり魅了されてしまったみたいだ。


「僕でよければ」

 

赤い顔を上げた彼女に、優しく微笑みながら、僕の気持ちを伝えた。


遅い五月の桜の舞う屋上、その桜の花弁にも似た色をたたえた少女の顔が

涙に溢れながら、優しく穏やかな笑顔に包まれる。

 

それが少年と少女の最初の一歩だった。



お付き合いいただき有難うございました。

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