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第7章 芝山邸の落成

 戸田は刑事が土地の元所有者山崎老人の死について疑問を持ち嗅ぎ回っているので工事を急いだ。東北の復興工事などが影響して職人の人材市場や建材市場がタイトになっているので一昔前のように一気に大勢の職人を集めるのが難しくなっているが、工事部に再三掛け合って何とか予定より早く落成に漕ぎ着けた。

「芝山様、ご注文の邸宅がようやく完成しました。そこでですね、早速引き渡しをしたいのですが」

「そうですか。最初の予定より早く仕上げて頂いて嬉しいです。早速そちらの営業所に行きます」


 その日戸田は営業所で住宅ローン融資をする銀行の行員と買い主の芝山と三者顔を揃えて引き渡しの手続きを行った。土地と家屋の登記済権利證を一旦芝山に渡し、芝山が銀行員に担保として差し出すと行員は支店に電話を入れ、戸田に代金の入金の確認を促した。

「確かに全額お受け取りしました」

 と戸田が行員に告げると、

「ではここに捺印をお願いします」

 と行員は芝山に住宅ローン融資契約書に捺印を促し印鑑登録証と見比べて確かめた。戸田はそれを確かめると、

「おめでとうございます。これを持ちまして売買手続きは全て終わりあの土地と家屋は芝山様の物となりました。ありがとうございました」

 と締めくくった。芝山は行員に、

「お世話になりました。これからもよろしくお願いします」

 と挨拶して営業所を後にした。

 芝山邸の引き渡しを無事に終わると戸田はやれやれと胸を撫で下ろした。法に触れるようなことはしていないが、万一後から変な情報が出てきたら芝山との間の始末が面倒だし、上司からも文句を言われることは分かっていた。


 新しい家に引っ越しが無事に終わって太郎と萠は家具屋と家電量販店にでかけ、必要な家具や家電を買いそろえ、

「明日午前中に自宅に搬入して下さい」

 と頼んだ。今は物流が徹底していて店で注文すると翌日には配送してくれる。便利になったものだ。翌日は太郎も萠も一日有給休暇を取った。

 翌日、朝から二人で運び込まれた引っ越し荷物を開梱して食器を新しい戸棚にしまっていると、冷蔵庫や洗濯機、掃除機、大型テレビなどの他食卓のテーブルや応接間のソファーセットなど注文してきた物が全て午前中に届き、場所を指定したりしている内にお昼を過ぎてしまった。


 一通り片付いて見ると、萠は夢に見た理想の住まいにほれぼれとした。

「あらぁ、もうこんな時間、あなた近所のスーパーに買い物に行くの。付き合って下さらない?」

「ああ、いいよ」

 二人は揃ってスーパーに出かけると食材や日用品をまとめて買いそろえた。


「すごいご馳走だなぁ」

「そりゃそうよ。今日は新居で初めての夜だからお祝いよ」

 萠が腕を振るったご馳走で満腹になると、太郎は真新しいテレビの前に座ってバラエティ番組を見始めた。萠は食器の後片付けを終わると新しいお風呂を自動にセットしてから二階の寝室のベッドメイクをした。


「お風呂、沸いたわよ。お先に入って下さらない」

 太郎が風呂から出ると新しいパジャマとガウンが揃えて置いてあった。

「出たよ」

「そう? じゃあたしも」

 と萠は湯殿に入った。太郎がテーブルを見るとワインとつまみがちやんと支度してあった。


 萠が風呂を出て食卓につくと、

「あなた、新しいお家に乾杯しましょう。乾杯!」

 ワインの壜が一本空いたところで、

「そろそろ寝ようか」

 と太郎が寝室に誘った。

「萠、家が広くなったところで、子供一人くらいいいだろ? 産んでくれないか」

 と太郎が今夜はゴムを付けないでセックスしようと言った。

「ダメよ。あたしたちは一生子供を持たないで楽しく生きようって約束したでしょ。あたしは子育てなんてイヤよ。あなたがいてくれるだけで充分」

 結局その夜も太郎は避妊具を付けて萠を抱いた。

「その代わりと言っちゃなんだけど、今の旧い車、新しいのと買い換えたいんだ。いいだろ?」

「そうね、許してあげる」

 萠は太郎に抱きついてすやすやと眠ってしまった。


 翌日太郎はドイツ製の乗用車の販売店に行って三十六回ローンで購入契約を済ませた。新しい家の駐車場は今までの小型車でなくて少し大きめの車が停められるように広めに作るように予め手を回してあった。

 新しく引っ越してきた時には大抵ご近所の挨拶回りをするものだが、太郎も萠もそんなことをすっかり忘れていたと言うより最初から挨拶回りなんて面倒なことをするつもりはなかった。まして、東側の隣は小さな建売住宅の建築中だ。

 翌朝太郎と萠は揃って家を出た。太郎は電車で新宿まで出て、中央線に乗り換えて東京駅までの通勤だ。萠は横浜駅から近い大手の旅行代理店まで通勤のため横浜線に乗った。朝家を出る時に近所の人たちと目が合ったが挨拶もせず殆ど無視した。萠は近所付き合いなんて煩わしいと思っていた。


 新築の家にどんな人が移り住んでくるんだろうと近所の人たちは関心をもっていたが、朝顔を合わせても挨拶もせず無視されて面白くなかった。

「ほら、今度あなたの家のお隣に引っ越してこられた、鷺沼さんと言ったかしら、なんだかいけ好かない人だわね」

「あたし、まだお顔も見てませんけどどんな感じだった?」

「お金持ちじゃなさそうだったけど、なんだかお高く留まっているようでお付き合いし難い感じだったわよ。こちらから先に会釈したのに無視されちゃったわ」

「若い方?」

「そうねぇ、見たところ三十半ば、あたしたちより少し若そうだったわ。あの若さであれだけの注文住宅をお建てになるくらいだから、ご実家がお金持ちなんじゃないかしら」

 この話はまたたく内に近所中に知れ渡った。

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