第6章 事故物件
一般に家に住んでいた者が病死した場合は事故物件の瑕疵(欠点)にはならないが、自殺や殺人なら瑕疵として取り扱われ、売り手は買い手に契約前に[重要事項に関する説明]
をしなければならない。戸田は土地の売り主の山崎から父は老衰で死にましたと説明されていたので、この時点では何も問題はなかったが、万一自殺だった場合も考えて強気に交渉したのだ。長年不動産取引の世界に身を置いていたから動物的勘が働いた。情報を持って来た仲間は何も言わなかったが、売り主が売り急いでいる点を話した時に何となく言葉の端に用心しろよと言うニュアンスが含まれているような気がした。
相模原警察署の刑事市川は山崎老人の事について聞き込みを始めた。
最初に山崎老人が住んでいた近所の聞き込みを開始した。
「確か老衰でお亡くなりになられたと聞きましたが、前日まで元気にこの辺りをお散歩なさっておられましたから、突然老衰でお亡くなりになったなんて信じられませんわ」
近所の主婦たちは概ね異口同音に不思議がった。市川は老人が住んでいた所に行ってみると、住んでいた家屋は綺麗に取り壊され、新しい建物の建築が進んでいた。
そこで、工事の責任者に警察手帳を見せて話を聞いた。
「わしらは××不動産の下請けで前のことは何も分かりません」
「××不動産の担当者は居ますか?」
「今日はまだ来ておらんが、明日なら来ますよ」
翌日現地に行くと、
「わたしは工事部の者です。この土地のことでしたら営業に担当の戸田と言う者がおりますので聞いて下さい」
刑事は不動産会社の営業所を聞いて戸田を訪ねた。
「随分突然な話ですね。あそこは事故物件じゃありませんよ。住んでいた山崎様の父上は老衰で亡くなったそうで、念のため医師の診断書も見せてもらいました」
「どこの病院の医師か分かりますか?」
「確か診断書には医師○○と署名されてましたが、診断書は死亡診断書を棒線で消して死体検案書になっていました。病院名は書かれてなかったので分かりません」
「土地を売られた方の住所、氏名は分かりますか?」
戸田は手帳を見て、東京都足立区青井二丁目×-×青井スカイハイツ山崎肇だと教えてくれた。
「東武スカイツリーラインの梅島駅から数百メートルの所です。刑事さん、言っときますが私が契約した時は単なる病死と言いますか老衰でしたので決して事故物件じゃありませんよ」
「それは分かってますよ。こちらは死因に疑問を持っているだけで、まだ自殺とか他殺とかは何も分かっていません。安心して下さい」
戸田は胸を撫で下ろした。どうか物件を芝山さんに引き渡すまでは何も起こりませんようにと祈るばかりだ。
刑事はわざわざ梅島まで出向いて山崎が住んでいるマンションを訪ねた。
「山崎さんねぇ、もう引っ越されてここにはいませんよ。なんだか海外に行かれるとかで当分帰れないのでここは解約されたそうです」
隣人はそんな風に説明した。
「海外ってどこの国とかは聞いておられませんか?」
「さぁ、元々深いお付き合いはしてませんでしたから何も分かりません」
市川はむしゃくしゃして警察署に戻ってきた。何かあると思うのだが、本人が居なくてはどうにもならない。それで死体検案書を書いた医師を探すことにした。同時に山崎の渡航歴も調べるつもりだった。




