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第15章 接待Ⅱ

 太郎は車二台より一台の方が何かと楽なので、会社の接客用の八人乗りのワンボックスを手配しておいた。運転手を合わせて六人が車に乗り込むと、車は首都高に上がり、横浜の山下公園目指して走った。予約しておいたロイヤルウイングは小型の豪華客船で山下公園に近い大桟橋国際客船ターミナルから出る。大桟橋近くで運転手を残してお客三人と一緒に太郎と丘は車を降りてターミナルに向かった。ロイヤルウイングは既に停船していた。

「どうぞ乗って下さい」

 太郎は乗船手続きを済ますとお客を誘った。その日は好天に恵まれ波は静かでとても良いクルーズとなった。横浜を船上から見る景色はとても良く、通訳の丘も気持ちよさそうに客と雑談、時々冗談を言って客を笑わせた。

 昼食はBデッキの屋外に料理を運んでもらった。

 ランチクルーズが終わって元のターミナルに戻ると、待っていてもらった車に全員乗り込んで本牧の三渓園に移動した。運転手は下調べをしていたらしく、迷わずに園内の駐車場に車を着けてくれた。こう言う手際の良さに太郎は感心した。

 三渓園は広い。全部を見るにはとても時間が足りないので、三重の塔を見てから三渓記念館に案内した。記念館内を一通り見て最後に抹茶処望塔亭で一服して三渓園を出た。

 案内をしている間、丘は何やら中国語で説明をしていた。丘の説明に客たちがいちいち頷いているので、多分歴史や由来について細かく説明してくれているのだと思った。太郎は手持ち無沙汰で、ふと時計を見ると十六時を回っていた。次の予定の山手111番館は十七時までなので、太郎はあせった。

「予定を減らせば良かった」

 と独り言を言うと、丘が聞いて、

「急げば充分間に合いますよ」

 とフォローしてくれた。山手111番館は山下公園に近い場所にあるので三渓園からそう遠くはない。十七時十五分前に滑り込んで運良く入館できた。

「この屋敷が出来た一九二六年は日本では大正から昭和に移った時代で、中国では北洋軍閥時代から中華民国に移る過渡期でしたわね」

 丘は中国人なので中国の歴史に詳しい。だが突然客の一人が、

「そんな話は聞きたくないっ」

 と怒り出した。太郎は中国語が分からないから、なぜ客が怒り出したのか分からず、丘に、

「どうかしましたか?」

 と尋ねた。丘は泣きそうな顔をしている。丁度この時代は中国は世界の列強の圧力に屈して半植民地化されてしまった暗い時代だったのだ。だから中国人にとっては想い出したくない史実だったのだろう。太郎も丘もそう言う所に配慮が欠けていた。

 そうこうしている間に閉館時刻が過ぎて、西洋館から追い出されてしまった。何が幸か不幸か分からないが、この場合は太郎たちにとっては幸だったようだ。


 太郎と丘はお客を元町の商店街にお連れしてショッピングを楽しんで頂いている間に気持ちを鎮めてもらうように頑張った。三人のお客はそれぞれ国に残してきた奥さんにとプレゼントの品選びをしたが、代金は全部太郎が支払うはめになってしまった。

「気持ちを鎮めてもらうんだから仕方がないよ」

 と太郎が言うと、丘は自分が原因だからと済まなそうな顔をしていた。


 最後のプログラムはモーションブルーのディナーショーだ。その夜の公演は女流バイオリニスト里見紀子さんのショーだった。ジャズピアノに合わせて奏でる里見さんのバイオリンの響きに三人の客は満足している様子だったので、太郎も丘も胸を撫で下ろした。


「やっと終わったね」

 客をホテルに送り届けてから、太郎は丘の顔を見て、長い間ご苦労様でしたと礼を言った。

「あのう、この後何かご予定はありますの?」

「僕は家に帰って寝るだけですよ」

 と太郎は笑った。

「でしたら少しお茶しません?」

 太郎は丘に誘われるままに、お茶に付き合った。

「芝山さんは彼女いらっしゃいますよね」

「いえ、決まったは(ひと)はいません」

「でしたら携帯の番号とメールアド教えて下さらない?」

「いいですよ」

 丘は積極的だった。太郎が帰宅してベッドに潜り込むと携帯が鳴った。見ると丘からだ。

「太郎さん、もうお休みでした?」

「今寝るところだよ」

「あたし、なんだか太郎さんを好きになったみたい。おやすみなさい」

 電話は切れた。多分丘は勇気を振り絞ってこんな電話をかけてきたのだろうと太郎は思った。その夜は丘の笑顔や泣きそうな顔が想い出されてなかなか寝付けなかった。

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