第14章 接待Ⅰ
中国人の賓客を接待するその日、太郎は垂井から紹介された中国人の邱さんを会社のオフィスで待っていた。約束の時間は午前九時、太郎は少し早めに出勤していた。会社の始業時刻は九時なので、出勤した時はまだ誰も居なかった。
丁度九時に受付の女性から、
「丘さんとおっしゃる女性がお見えになってますがどうなさいますか?」
と連絡が入った。
「九時に約束しています。済みませんが第三応接に通して下さい。お茶二つ、お願いします」
太郎は五分ほど待って応接室に出向いた。太郎は受付の女性が邱さんを丘さんと読んで丘さんだと連絡してきたものと思っていた。垂井はその女性の名前は邱淑惠ですとメモ用紙に書いて渡してくれていた。
「初めまして、芝山です。確か邱淑恵さんでしたよね。垂井さんから伺ってます。よろしくお願いします」
太郎は名前を中国読みでキューシューホエイさんと言った。初めて逢った中国人の女性はとても美人で年は垂井と同じか少し若い感じで好感を持てた。
「私は中国、正確には台湾ですが、国では名前を邱淑恵と呼んで頂いてます。でも日本ではおかすみえと申します。なのでおかさんと呼んで下さい」
淑恵の日本語の発音はきちっとしていた。
「日本には長いのですか?」
「はい。中学校から日本の学校に通いました。両親は台湾から日本に来まして長く中華街でお店をやっていますが、家庭の中では今でも中国語を使っています」
「道理で中国語も日本語も達者なんですね。今日一日、中国から商談に見えているお客様三人の観光ガイドをお願いします。僕は中国語がぜんぜん出来ませんので」
「垂井さんから聞いております。精一杯やりますのでご安心下さい。ビジネスの話になりますが、日当はどれ位頂けます?」
「大切な話を忘れていました。素人のアルバイトは二万円前後と聞いていますが、プロの場合はスキルによって五万円から十万円が相場だと聞いています。ご希望はありますか?」
「相場で決めて頂いて結構です」
丘は遠慮がちに答えた。
「では五万円としましょう。但し交通費を含めて五万ですが、お客様とご一緒に行動している間は全ての費用はこちらで負担します。よろしいですか?」
「パーフェクト、それで充分です」
その時受付の女性から、
「お客様がお見えになりました。第一応接にお通ししてあります」
と連絡が入った。太郎は直属上司と部長に連絡を入れてから丘と一緒に第一応接室に向かった。
太郎と丘が応接室に入ると、三人の客が茶を啜って待っていた。
「直ぐ部長が来ます。しばらくお待ち下さい」
と言った時、営業本部長と部長、それに太郎の上司の課長が入って来た。簡単な挨拶を済ませたところで、部長が三人の客を本部長に紹介した。
「こちらは谢(謝)建明さんで今回のプロジェクトの責任者です。隣は徐俊賢さんで瀋陽の工場の責任者、左端は刘(劉)宗憲さんで営業本部長です。今日はこれから芝山君が横浜をご案内して差し上げる予定です」
「皆さんは横浜は初めてですか?」
すると三人共に東京は何度か来たが横浜は初めてだと答えた。三人の紹介の内容は丘が通訳してくれたので会話は滞りなく進んだ。
「横浜は歴史のある街ですからどうぞごゆっくりと観光なさって下さい」
と本部長が言うと、太郎の上司の課長が、
「先ほどから通訳をして頂いているこちらの女性は芝山君の知人で今日一日通訳として同行してもらいます」
と丘を紹介した。丘は、
「どうぞよろしくお願いします」
と頭を下げた。本部長が退席してから、太郎は丘の顔を見て、
「本日の行動予定はこちらにお任せ願えませんか?」
と言うと丘は客に中国語で内容を伝えた。
「お任せしますとのことです」
と丘は太郎の顔を見てにっこりした。笑顔が可愛い。
「では、車を玄関に回しますので、これから出かけましょう。」




