第12章 萠の気持ち
芝山太郎と別れて、自分は芝山に少し冷たすぎたかも知れなかったと少し後悔した。夕食くらい気楽に付き合ってあげてもどうってことはなかったのになどと考えてしまう。そうだ、明日具体案の打ち合わせでもう一度会える。萠はそんなことを考えつつ横浜の営業所に戻った。
「クライアントとは話が上手く行ったのか?」
営業所に戻ると上司に打ち合わせ内容について聞かれた。
「はい。先方のご予算はマックスで五十万だそうです。」
「垂井案としてどんなことを考えてるんだ?」
「わたしとしてはお昼はランチクルーズ、ロイヤルウイングで横浜の景色を海上から観光して頂いて、そのあと本牧の三溪園にご案内してから西洋館の山手111番館見学にお連れした後、元町でのお買い物にお付き合いして、最後にモーションブルーのディナーショーにお連れしてはどうかなんて考えてます」
「それ、いいじゃないか。さすが垂井君だなぁ」
萠は上司のOKをもらったようなものだと思った。
「で、予算内に収まるのか」
「大丈夫です。宿泊費は別途で良いと聞いていますから」
「ところで、垂井君は中国語もできるのか?」
「あたしはダメです」
「通訳はどうするんだ?」
「中国人の友人で日本語が達者な方がいますから、当日お願いしようと思ってます」
「そうか、最近我が社も中国語ができる人を増やしたいと考えているんだ。そのお友達、うちの社に派遣で引っ張れないか?」
「すぐそうして飛躍するんだからぁ。ダメですよ」
萠はきっぱりと断った。上司への報告が終わると、萠は明日芝山に持って行く観光案内案を作成した。予算は概算すると余裕で行けると思われた。
翌日芝山にアポを取ると、萠は案を持って芝山を訪ねた。今回は芝山がいるオフィスに出向いた。芝山は萠を応接室に案内した。お茶が出たところで、
「早速ですが、この案でご検討頂けませんか?」
と切り出した。芝山はざっと目を通すと、
「僕は中国語は全然ダメなんだ。垂井さんに通訳をお願いできますか?」
思った通り、芝山は通訳の話を持ち出した。
「そうおっしゃると思ってわたくしの友人にお願いしてあります」
「と言うと当日は垂井さんは同行なさらないのですか?」
「はい。友人がいれば大丈夫だと思います。彼女は父親が中華街のお店をやってますので横浜にはわりと詳しいです」
芝山はちょっと残念そうな顔をした。
「わたくしも同行しないとダメですか?」
「予想が外れたな」
と芝山は照れた。
打ち合わせが終わると芝山はストレートに、
「垂井さん、今夜夕食に付き合って下さい。……あっ、ダメですよね」
と萠の顔を見た。萠はどうしようか迷った。それで、
「すみませんがこの後用がありますので」
と断った。
「残念だな。つかぬことをお尋ねしますが、垂井さんはご結婚なさっておられますよね」
と聞かれた。萠はいきなりだなぁと思ったが、にっこり微笑んで、
「残念でした。まだ未婚ですよ」
と両手を拡げて見せた。
「そうおっしゃる芝山さんは?」
「あはは、僕も独身ですよ」
と両手を拡げた。そこで二人は笑い合った。
帰りの電車の中で、萠は芝山の笑顔を想い出していた。
「なぜか引っかかるんだよなぁ。あんな奴のどこがいいんだろ」
萠は苦笑した。




