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第11章 太郎と萠の出会い

 会社に勤め始めて五年、芝山太郎はようやく仕事に慣れ、最近では責任のある仕事を任されることが多くなった。大学卒業後ストレートで入社したので、その時二十七歳になっていた。

「来週中国から三名大事なお客様が来社するんだ。芝山君会議が終わった次の日に一日接待役を頼むよ。なんでもあちらさんは横浜の観光をしたいそうだ」

「他にご希望とか出てませんか?」

「特にないようだが、市内の名所を一回りして夜は横浜で会食ってとこでどうだ」

「分かりました。アレンジをしておきます。予算は大体一人十万程度に抑えて大丈夫ですか」

「まあいいとこだろうな」

 太郎は東京なら会社と同じビルの中にある旅行代理店にアレンジを頼んでも良いが、横浜なのでいつも使っている旅行代理店に横浜の営業所を紹介してもらった。


「もしもし、芝山様でいらっしゃいますか? こちら東京の方からご紹介頂いた件でお話を伺いたいのですが」

「はい。お世話になります。東京まで出て来て頂けますか? それともこちらからお邪魔しましょうか」

「いえ、わざわざお忙しい中いらして頂くのは失礼ですので、こちらから伺わせて頂きます。私横浜営業所の垂井萠と申します」


 その日の夕方、太郎はビルの地下一階のポワン・エ・リーニュと言うカフェで垂井を待った。待ち合わせ時間は午後六時だ。太郎は六時少し前に店に入って入り口付近を見ていた。間もなくすると、若い女性が店の入り口でキョロキョロ周囲を見ているのに気付いた。一目で常連の客ではないと思われた。

 六時を過ぎてもその女性は人待ち顔で突っ立っている。太郎は来るのは女性だと分かっていたが、多分近頃多くなったアラフォーの女性が来るものと思っていたので垂井と言う女性の到着を待った。五分を過ぎても来ない。先ほどの若い女性はまだ突っ立っている。それで、もしかしてと太郎は席を立ってその女性に近付いた。

「もしかして垂井さん?」

 太郎に声をかけられて、女性の顔はパッと明るくなった。笑顔が可愛い。

 声をかけられた垂井萠は相手の男性が中年のオッサンだと思っていたのにわりと格好がいい自分より少し年上の男性だったことも手伝って先ほどまでのイライラが吹っ飛んでしまった。

「垂井です。初めまして。時間通り来ましたんですが、お顔を知らなくて……」

「どうぞあちらへ」

 太郎はアラフォーの女性が来るものと思っていたのに若い女性だったので意表を突かれたが顔には出さずに席に案内した。太郎と萠は向かい合って座席に着いて、注文した飲み物が届いてから太郎は相談の内容を切り出した。

「来週中国から大切な来客がありまして、横浜の市内の案内を頼まれています。当方は不慣れなので、アレンジをお願いできませんでしょうか? 予算は多くないですが、一人平均十万として三十万、僕の分も合わせて五十万以内しか出せませんが」

「それって夕食の接待は当然込みだと思いますが、宿泊のホテル代も含めてってことでしょうか?」

「横浜に泊まりたいと言う話が出た場合、宿泊費は別途精算で構いません」

「分かりました。では明日案を作ってもう一度お持ちします」


 打ち合わせは終わった。

「垂井さん、これから夕食ですよね」

「はい。帰宅してから食べる予定です。会社に少し残したお仕事がありますので、一旦横浜に戻りますが」

 萠はお客の芝山が夕食に誘っていることを察していたが、初対面の男と付き合うつもりはなかった。萠の気持ちを察してか、芝山太郎は無理強いはせず、

「ではこれで」

 と言って勘定を済ますとさっさと店を出て行った。萠が自分の会社の経費で処理しますと言ったが芝山がさっさと勘定を済ませたのが印象に残った。

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