8.冒険者ギルドで魔法の練習をしよう
「ふぅう……」
息を大きく吐く。
私はここ最近で一番というぐらいに緊張している。汗がだらだらと流れていく。
いざ、魔法を使おうと考えると落ち着かない。私の身体が魔法を使うことを拒絶しているかのようである。
過去の記憶が、頭をかすめる。
大勢の人々の前で、重要な場面で……私は魔法を使えなかった。嘲るような視線を思い起こし、その後に言い放たれた言葉を思い出すとぶるりっと身体が震えた。
恐怖心と、緊張感。
私の心を支配するのはそればかりだ。
鍛錬場の一角を借りているわけだけど、周りに他の利用者の姿も当然ある。私のように少しだけ体重が重く、存在感のある女性がこんな場所に居るのも珍しいのだろうちらちら視線を受ける。
それだけでも、昔の記憶が頭をよぎってしまった。
大好きだった魔法が使えなくなって悲しかった。魔法自体を使うことさえも、躊躇してしまった。大好きだったからこそ……私は余計に魔法に触れることをやめてやめてしまった。もっと中途半端に、どうでもいいことだったらすぐに割り切ってまた関わるようになったかもしれない。
過去の私は魔法を使うことに真剣だった。
ぎゅっと拳を握った。
私は……また深呼吸をする。大丈夫だと自分に言い聞かせて、杖を構える、まず真っ先に使ったのは私が一番得意だった風の魔法。まずはそよ風程度を起こすもの。
体内の魔力を込める。
そしてその魔力を、魔法として顕現させる。
上手く発動した。簡単な魔法だけれども、それだけでほっとした。
私はもう二度と、魔法を使えないのではないかと心配だった。怖かった。もう魔法を使えないなんて思いたくなくて、だからこそ杖に触れることさえも拒絶した。
でも今の私は、魔法が使えるんだ。そのことが泣きそうなぐらいに嬉しかった。でもこんなことぐらいで泣くのもどうかと思って、涙を抑える。
――私は魔法が好き。その気持ちがあふれ出てくる。
大好きだったものを取り戻した感覚。私の手のひらから零れ落ちたものが、確かに戻ってきているのだと思った。
以前のような難しい魔法はすぐには使えないかもしれない。それでもこれは、私にとっての大きな第一歩。
まずは簡単な魔法から試してみることにする。攻撃魔法は、今は使わない方がいいだろう。
それに私が魔法を使うのをちらちら見ている人達もいる。下手に噂になって、冒険者になることを進められたりしても今は困る。もっと先の未来、私が魔法を使うのをもっと躊躇しなくなったら別だけど、今は無理だ。
私はそう思ったから、生活などにつかえる程度の魔法だけをまずは試す。
思えば幼い頃、よくお兄様と一緒に魔法の練習をしていた。お兄様は努力家で、出来ない魔法があると一生懸命練習していた。お兄様って、影で努力するタイプで、私にとって優しくて自慢のお兄様だ。
お父様やお母様だって、それなりに魔法が使えた。私が魔法を披露すると、家族皆が笑っていた。
――そんな家族仲を壊してしまったのは、他でもない私だ。
お兄様が両親と気まずくなったのは、私が引き籠ってしまったから。私のことで喧嘩していたことも知っている。散々、迷惑もかけてしまったと思う。
私がちゃんと、自立出来たら……両親にも報告しよう。これまでのことを謝って、お礼も告げて……そしたら家族皆で食事を摂れたりなどするだろうか。出来たら嬉しいな……。
療養中のお父様が元気になりますようにって祈りも捧げよう。どこかのタイミングでお見舞いにも行きたい。私が外に出るのに怯えて、療養先に一緒に行かなかったのだ。
お父様とお母様にもきっと心配をかけている。
このままお父様やお母様に会えないなんてことになったら私はきっと後悔をすることだろう。後悔をしないためにも早めにお金をためておかないといけない。
お兄様にも手紙を出して、お父様の状況を聞いておかないと……。
なんというか、引きこもっていた私は自分のことでいっぱいいっぱいで周りを全然見れなかったんだなとそのことに自己嫌悪してしまう。
「えっと、マルちゃん、そんなに魔法連発していて大丈夫?」
考え事をしながら、ひたすら魔法を行使していたらそう問いかけられてしまった。
はっ、しまった。
何も考えずに魔法を連発していたけれど、普通の人の魔力量ならこんなに連続で魔法は使えないんだった。
私自身、魔力がかなり多いからこれだけのことが出来るだけだもの。
変に注目を浴びてしまったので、その日の練習はそこで終わった。
その日から私は時間を見つけては魔法の練習に勤しむことにした。




