7.魔法の練習のために冒険者ギルドへ行こう
「マルちゃん、お疲れ様! もう上がっていいよ」
そう言われて、今日の勤務を終えた私は外に出る。顔見知りの冒険者――リグシャン達にも「今日はもう上がり?」などと声をかけられる。
彼らはよくこの食堂で食事を摂っているので、こうして会話を交わすこともそれなりにある。
食堂を後にした私は、この街でも二軒しかない魔法具の売ってあるお店へと向かった。
杖を購入しようと思ったのだ。安い杖ならば、今の私でも購入することが出来るはずだ。
杖が無くても魔法を使うことは出来るけれど、杖があった方が使用しやすいのだ。何にしても私は魔法を使うのはかなり久しぶりだ。だからこそ、杖を使った方がいいだろうと判断したわけである。
「あら、マルちゃん。何かお買い物?」
そういって問いかけるお店の店員は、食堂にもよく食事をしにきてくれている常連さんだ。
「杖を買いたいと思っているの。おすすめを教えてもらえるかしら?」
「杖? マルちゃんは魔法が使えるの?」
不思議そうな顔をされた。この街には二軒しか魔法具のお店はないが、杖はあまり売っていない。というのも杖を買うほどに魔法を学ぼうとする者がこの街には少ない。どちらかというと、職人の作った道具を購入するものばかりである。
「ええ。正確には使えたというのが正しいわ。しばらく魔法を使ってないけれど、また使えるようになりたいなと思って」
そう言いながら不思議な気持ちになった。もう二度と、魔法を使うことはないだろうなと思っていた。それなのに、私はこうして新しい杖を買おうとしている。
前世の記憶を思い出したからこそ、こうして新たな一歩を踏み出している。凄く不思議で、新しいことをやることに少し興奮する。
「そうなの? 久しぶりに使うとなると……こういう杖はどう?」
そう言いながら、私に幾つか杖をお勧めしてくれた。値段がお手頃で、初めて魔法を使う人が買うようなそんな杖たち。
種類は少ない。手持ちのお金で、問題ない範囲のもの。それでいてそれなりに使いやすいものである方がずっといい。
「えっと、じゃあ、これをお願いします」
そうして私は一つの黒い杖を買った。長さはそこまでない小柄なもの。素材の効果的に少し魔法を使いやすいようにされているもの。
私は会計を済ませて、お店から出ようとする。その時に声をかけられる。
「マルちゃん、魔法が使えるなら魔力の補充などもやってみない?」
魔法使いはそう言った仕事も行うものである。だから彼女がそう言って私に提案してくるのは当然のことだった。
私が自立するためにはそう言った仕事も行った方がお金を貯めるのにはいいというのは知っている。それでも……今の私は仕事としてそれらを行う気はなかった。
「ごめんなさい。私、しばらくは食堂で働くことに集中したいの」
私はそう答えて、はぐらかした。
私が魔法をしばらく使わなかった理由も、仕事にしたくないことも……誰かに話すのは憚れた。
私自身のことを話すのは、躊躇してしまうから。
いつか私が魔法を以前のように心から楽しめるようになったら、魔法というものが好きという気持ちを思い出せたのならば――きっと魔法に関わる何かに携われることだろう。
魔法をいきなり街の中心部で使うわけにもいかない。どこで魔法の練習をしてみようかと考えて、適切な場所は冒険者ギルドの一室を借りることだった。
そう、この世界には前世で創作の世界でよく出てきた冒険者ギルドというものが存在している。それこそ討伐や採取などの様々な依頼を請け負っている。
リグシャン達、冒険者はこのギルドで依頼を受けて仕事をしている。ちなみに一般市民も依頼のためだったり、私のように何かしらの用途でギルドを使いたいから訪れる人はそれなりにいる。
私は冒険者ギルドなんてものに行くのは初めてである。
赤色のレンガのギルドの建物の中へと入ると、注目を浴びる。こうして視線をむけられると、少しだけ怖くなった。
今世の私にとって引きこもった時の出来事は、トラウマになっているのだろうと実感した。前世の記憶を思い出していなければ、この場からすぐさま逃げ出していたことだろう。
でも今は、前世の大人として生きた記憶があるから――私は大丈夫とそう言い聞かせられる。
「マルちゃん、どうしたんだ?」
「何か用か?」
食堂によくやってくる冒険者達に声をかけられる。
見知った人たちがいると少しだけほっとする。知っている人が全く居ない場所だと、恐ろしい気持ちになるもの。
「魔法の練習をする場所を借りたくて……」
私がそう言うと、魔法を使えることに驚かれた。あんまり期待しないでほしい。
それから既知の冒険者たちの助けも借りながら、受付の人に説明をして無事に鍛錬場の一部を借りられることになった。




