2.痩せるために運動をしよう
「はぁ、はぁ……」
前世の記憶を思い出して以来、運動を始めている。まだお兄様とは会話を交わせていない。
お兄様からしてみれば、私は信頼に足らない相手であるのは確かだ。私はずっとお兄様の言葉を聞かないふりをし続けた。そのせいでお兄様は私と会話を交わしても無駄だとそう思い込んでいると思う。
本当にただの自業自得すぎて、自分に呆れてしまう。
お父様とお母様の顔も見れていない。つい少し前にお父様が倒れてしまった。お母様はそれについていって療養中だ。……だからこそ、お兄様がこのまま領地を継ぐのだ。公爵になるために大忙しのお兄様からしてみれば私はお荷物でしかなかった。
忙しいお兄様が私のために時間をすぐに使えるわけもない。だからといってお兄様に会うまでの間、相変わらず引きこもってばかりでは何も変わらない。
……基本的に私は引きこもって以来、特定の場所以外に姿を現すことなんてしていなかった。周りの視線が怖くて、視線を向けられることを恐れていた。
前世の記憶を思い出してもその恐怖心は変わらない。正直言って、外で運動をしようとした時、恐ろしくなった。このまま部屋の中で閉じこもったままの方が楽なのではないかとかそんなことばかりを考えた。
……それでも私は外に出ることにした。
普段私と関わりのない侍女達からの視線も痛い。明らかに私のことをよく思っていない視線だ。それも仕方がないだろう。
見るからに私は、身だしなみを整えられていなかった。
お医者様に相談した上で、少しずつランニングを進めている。
体力がなさ過ぎて泣けてくる。引きこもるまでの私は、健康的で痩せていた。それでいて両親に似て美しく育っていた記憶。でも今の私は生活習慣が悪すぎて、美しくない。
出来れば……昔のように痩せたいな。
もう三十歳だし、やせたところで……って言われてしまうかもしれない。それでもどうにかしたかった。
貴族令嬢は基本的に十代で結婚することが多い。二十代でも嫁ぎ遅れなんて心無いことを言われたりするぐらいだ。私はもう三十歳なので結婚は難しいだろう。平民でも大体二十代の内には結婚することも多いし。
そういうわけで一人で生きて行かなければならない。
お兄様は私を見放そうとしていたことは確かなことだった。それでもお兄様は……私が今更でも自分の意思で変わろうとしているのを知れば援助はしてくれそうだ。
……最初は援助をどうしてもしてもらわなければ私は自分の足で生きて行くなんて出来ない。でもいずれは公爵家とはかかわりのないところで、平民として生きていけるのようになるのが一番いいだろうな。
結婚も望めないだろうから、女性一人で生きて行く術を身につけないと。
私はそれを決意して、ただ走る。
私は小さな頃は身体を動かすことも好きだったな。公爵令嬢なのに、元気すぎるって呆れられたぐらいだった。少し大きくなってからは、令嬢教育を施されたのもあって人前で走り回ったりすることなんて無くなったけれど。
思ったように身体を動かせないことは、少しだけストレスだったりもする。
それでも頑張って運動をすれば、やせられると信じよう。あとご飯も控えめにしてもらって、健康的な食事を心がけることにする。
運動を終えた後に用意してもらった料理は野菜中心だ。
引きこもってからの私は、食堂で家族で食事をすることはしなくなった。昔は家族で食卓を囲うことが凄く好きだったのに。お喋りをすることも好きで、いつも楽しみにしていたのに。
ずっと部屋に食事を運んでもらって、一人で食べている。その食事に関しても肉中心のものばかりだった。嫌いなものを全然口にしなかった。だから余計に太ってしまっていた。
……野菜中心のものを頼んだ時、侍女は驚いた顔をしていたな。これまでの私の暮らしをしっていれば、それも当然のことだろう。
それにしても料理人達はすぐに料理を改善してくれて、有難い。
疲れた身体で、もっと食べたくなるのを抑えながら食事を摂った。本当ならば食堂にも顔を出したいなと思っていたけれど、いきなり向かってもお兄様やその奥さん、子供達に迷惑をかけてしまう。
お義姉様との関係性も私は良くない。
というかほとんど喋ったこともない。お兄様は私と家族を関わらせないようにしていた。引きこもっている私は子供には悪影響なんだなってそれは分かる。それに前世の記憶を思い出す前の私はお兄様の家族と関わりたくないとそう思っていた。
だってキラキラしている公爵家は、私にとって眩しすぎた。
自分と比べて苦しくなって、見たくなかった。
出来れば……お兄様と和解出来れば一緒に食事もとれるようになりたいなと思ったけれど、お兄様達は嫌がるかしら?
あとは……昔の友人達に連絡をしたい気持ちも湧いてきた。でもすぐに首を振る。だって私の昔の友人達は、貴族夫人として立派に生きている。
貴族令嬢としては落ちこぼれである私が関わらない方がいいだろう。それに連絡をするにしても自立してからだ。
そう思ったので、一先ず保留にすることにした。




