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引きこもり令嬢(三十歳)の再起  作者: 池中織奈


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17.怪我人の手当てと、過去の知り合いとの遭遇

 街で何度か喋ったことのある本屋で働く女性が怪我をしていた。どうやら街の近くに小さな魔物が侵入してしまっていたみたい。すぐに対処されたようだけど、ちょっとした傷を負ったらしい。



 魔物から受けた傷というのは、決して甘く見てはいけないものだ。少しの怪我だったとしても、後々大問題に繋がったりする。

 例えば少量の毒が身体に入ってしまったというそれだけでも、腕が動かなくなるといった重症に繋がることもなくはない。実際に私はそう言う人を知っている。回復系統の魔法もあるから、よほど手遅れの事態でなければどうにかなるけれど……。



 そう言う事例があるからこそ、怪我をした時にはすぐに治療を行うようにというのは広く広まっている。




 少なくともこの公爵領では、魔物関連の傷に関する制度はそれなりに整っているとは思う。お金がない状況でも、後払いをしたり、場合によっては無償になることもある。そう言う制度が整っているのを見ると……お父様達って立派なんだなって今更ながら思った。




 ……親バカで、私に対しては甘くて、引きこもりをずっと許容してくれていた両親。

 客観的にみれば、もっと早くに切り捨てても良かったのだろうにそんなことはしなかった。




 私は傷の手当てなどについて、専門的に学んだことがあるわけじゃない。だから、基本的に怪我の治療の際はお手伝いをする程度だ。

 余計なことをして、怪我が悪化したりするのは嫌だもの。こうして考えると、医療事業に携わっている人達って凄いわよね。

 貴族も人の命を預かる立場ではあるけれど、直接こうやって怪我人の手当てをしたことなんてなかった。



 スタンピードの場でも私は戦闘にばかり赴いて、裏でどんな治療がされているかはあんまり確認したことはなかった。やっぱり怪我を負った人は冷静ではいられなくなるものなんだと改めて思った。



「もう、私は死んでしまうんだわ!! うわあああ」




 怪我自体はそこまで大きなものではなかった。けれども戦いの場などに一度も出たことのない人だと少しの怪我でも不安になることは分かる。


「落ち着いて。大丈夫だから」



 私はそう言ってなんとか声をかけることしか出来なかった。ある意味、こういう怪我の治療をする場も一つの戦場のようなものなのだなと改めて思った。

 薬師などの調合したものは万能なわけではない。




 全ての怪我に一つの薬で対応出来るかと言えば、それもまた違う。この世界は魔法があって、魔力のある植物なども多々ある。

 こういう分野って奥深いんだなと考えて、何だか面白いなとは思った。




 人の命を預かることは大変だけど、誰かを助けられる仕事は素直に尊敬できる。




 なんとか怪我人を落ち着かせたりしながら、私は治療の補助を進めていく。スタンピードが起こりかけているというのもあり、最近の私は凄く忙しい。

 早急におさまってくれたらいいのに、とそればかりを思っている。




 私にもっと出来ることが何かないだろうか。……早急に問題を解決する手立てがないことがもどかしい。

 今だって命の危機にさらされている人も多くいるだろう。今は、この街から離れているリグシャン達だってそう。




 最前線で戦おうとしている人達は、それだけ緊迫した状態にあるはずだ。




 引きこもる前、私は周りに守られて生きてきた。辛い思いをするような情報はそもそも遮断されていたと思う。スタンピードの対応の場でも、当たり前のことだけど一人で参加することなどはなかった。

 今の私はもう大人だから……人に守られることはない。スタンピードの情報から目をそらさないようにしようと思って、周りから情報は取り寄せているから死人が出ているといった情報もちゃんと聞いていた。



 まだ本格的にスタンピードが始まっていない状況でもそうなのだそう考えると、どれだけの被害が起こるのだろうと心配になった。




 誰かが亡くなるのなんて見たくもない。危険な目に遭う人が居るのならば出来る限り助けたいってそうも思う。私が出来ることなんて限られている。ただ頑張るって決めた。




 それにしても引きこもりを脱してすぐにスタンピードが起こる前兆があるなんて間が悪い。いえ、でもそもそも引きこもった状態の時にスタンピードが起こっていたら、私は公爵家にとっては足手まといでしかなかっただろうけれど。



 私がこうやってスタンピードの対応をしているのを見たら、お父様やお母様は驚くだろうな。

 お兄様は背中を押してくれているけれど、両親は私に対して過保護な一面があるから。




 ……私が引き籠った時、凄く心配していた。王族関係のことも私が引き籠った理由の一つだったから、余計に私の身を守ろうとしてくれていた。

 スタンピードが全て落ち着いた頃には、私の独り立ちも完成しているだろうか。一人で生きていられるぐらいになっていたら、両親にも会いに行こう。


「……マルグレッタ様?」




 考え事をしながら、ただただ手を動かし続けていた。食堂で接客をし、スタンピードの対応のためにギルドで手伝いをし……それを続けていた中で聞こえてきた声。



 私はそれに驚いた。

 だってこの街で、私を様付けで呼ぶ人なんていないから。マルちゃんって呼ばれることが多くなっていた。そちらの方が当たり前だった。



 振り返った場所に居たのは、一人の騎士だ。

 ……私の、学生時代の同級生であった貴族の子息。今は騎士として働いているのかもしれない。


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