16.魔物のスタンピードに備えよう
お兄様からはすぐに手紙が届いた。その手紙に書かれていたのは、「こちらは問題ないからマルグレッタは自由にしてくれていい」というものだった。
一見すると突き放されているように思える。しかしそうではないことは分かる。
お兄様は平民になろうとしている私のことを心配してくださっているのだ。貴族令嬢としてスタンピードに関わる必要はないって。
冷たい様に見えても、お兄様は私のことを思ってくださっているのだ。
そのことに、お兄様に無性に会いたくなった。……私はもっと人に甘えずに生きていけるようになりたいのにな。
お兄様に迷惑をかけることなく、お兄様にとって誇りの妹っていってもらえる私になりたい。
私はもっと、自立できるようになってからお兄様に会いに行こうってそう思っていたのにな。
……それなのに私はすぐにお兄様に甘えたくなってしまう。
私は首を振った。
私はお兄様のことが好きだ。私の大好きなお兄様はきっと私が甘やかしてほしくなったら、きっと何だかんだ受け入れてくれるけれどそれじゃいけない。
私はそう思っているので、一旦お兄様には簡潔な返事をするだけにとどまった。
お兄様が、もし危険な目にあっていたら私はすぐに助けに行けるようにはしたい。
私が魔法を使うことに怯えて、躊躇して……その結果、お兄様や大切な人が傷つくなんて私は嫌だから。
私が引き籠っている間――人との関わり合いを絶っていたせいで失ってしまったものも多くあるだろう。それに、もう二度と会うことが叶わなくなってしまった人もいる。
そのことは悲しく思う。だからこそ……もうそう言う思いをしなくて済むように、逃げずに動いていきたいと私はそう思っている。
だから、ギルドで雑用などをやっていたりする。……私のことをお兄様から聞いている職員もいるのか、驚いた顔をされることもあった。
お兄様ってやっぱり妹思いな方だ。私に何か起こらないように、心配なさっていてくれている。
その過保護な一面を感じると、思わず笑ってしまった。
公爵令嬢として生きていた私が、こうして雑用を自らしているのを不思議に思っているらしかった。
確かに……引きこもる前の私だったら、こんなことは率先して行うことはなかったかもしれない。寧ろ率先して、前に立って、魔物への対応の方をやっていたかも。
……でも今の私は、魔法に自信がない。
いざという時に魔法を使えないのでは足手まといにしかならないのだから。
それにしてもこうして裏方を手伝っていると、スタンピードにおいて戦闘職の人達が活躍できるのはそう言った支えがあるからなんだなと改めて思った。
昔の私は、周りに支えられているとか考えたこともなかった。
自分の行動と、その結果だけが全てだった気がする。視野が狭かったと言えるのかも。
私は華やかな部分だけを、見続けていた。それ以外のことなんて目を向けることなんて出来ていなかった。
私は食堂で働きながらも、それ以外の時間帯は魔法の練習とギルドのお手伝いばかりをしていた。食堂で働き始めた当初よりも、多くの人達と関わり合うようになれたとは思う。
今まで話したことのなかった人たちと話すのも、新たな発見があって楽しい。
苦手かもしれないと、なかなか近づかなかった人と話すと、実際は喋りやすかったりもした。
私が勝手に偏見を持ってしまっていただけなんだなとその点は反省する。
人々が魔物と戦えるように、支える役目。それも重要だなと思ったから、スタンピードが終わった後はお兄様に彼らがきちんと行動にあった報酬をもらえるように意見はしたいな。……私の意見なんて余計なお世話かもしれないけれど。
こうして実際に支える側として動いていると様々なことが見えてくる。
スタンピードのために、私が昔親しくしていた人たちもきっと動いているんだろうな。民を守るために、一生懸命。
王族や貴族だと特に人の命を預かる立場だから、選択を一つするのも大変なはずだ。
日に日に、冒険者達も大変そうにしているのが分かる。見知った冒険者が怪我をした話も聞いた。
王都の方でも同じようにバタバタしているようだった。
この国をスタンピードが襲う。
過去のスタンピードでは多くの人達が命を失ったり、怪我をしたりしていた。だからこそ、この国はスタンピードに慎重である。
リグシャン達……食堂をよく訪れる冒険者達も、魔物の被害が多い地域へ駆り出されることになったらしい。
私の居る街はまだ、そこまでスタンピードの被害を受けにくいだろうと予測されている。
一番、魔物が現れているエリアはまた別の場所だ。
そこに比べればまだ街は落ち着いている。とはいえ、魔物の被害が完全にないわけじゃない。




