14.私は少しずつ痩せてきた
少しずつだけれども、身体が軽くなっていることを実感している。前世の記憶を思い出してすぐの頃の私は太りすぎていて体力が全くなかった。
だからこうして自立を目指して働き出して、適度に出来うる限りの運動をして、健康的な暮らしが出来ているからか少しやせてきた。
そのことが私は嬉しい。
もちろん、まだ一般的に考えれば太っているけれど。
もっと痩せて、美しい自分にはなりたいかもしれない。昔の私は凄く自信満々で、自分のことが大好きだった。少し自信過剰だったかもしれない。
でもそう……うじうじしているよりも、自分のことが好きな方が良い気はしている。少なくとも私は自分のことがもっと好きになれたら私はもっと頑張れる気がするから。
――だから私は、自分のためにももっと健康的な暮らしが出来るように頑張りたいと望んでいる。
「マルちゃん、やせたね」
「どんどん綺麗になっているね」
そう言って褒められると、嬉しくなった。とはいえ、此処で油断するわけにはいかない。私はもっと、痩せていきたいものだ。
この世界の平均寿命は、前世よりもずっと短い。だから不摂生な生活ばかりをしていたら、長生き出来ない。
私は三十歳になってから第二の人生を歩み出した私にとって残りの人生が短くなることは避けたい。
「いえ、私はまだまだよ。もっと自分を磨きたいの」
私がこれからどう生きて行くか。決めていない。少しずつ自立しているけれど、それだけだから。
私はもっと自分のやりたいことを見つけたい。何をしたいのか知りたいし、お兄様から援助されている分を無くしていきたい。
今はまだ、お兄様や公爵家のおかげで私はこうして暮らしていけているのだから。
出来れば、雑念は全て無くしたい。私が、私らしく生きられるようになりたい。ずっと、そればかりを考え続けている。
少しずつ上手く行っているのだけれども、そのことが不安になっているのかもしれない。
前世の記憶を持つからこそ、何処か冷静で居られるけれど元々の私は……ずっと引きこもっていて自尊心なんて壊れていった。だから、私は何処か心の中で怯えているのかもしれない。
外に出ようとして、それでも失敗して……まるで世界が私が表舞台に戻るのを嫌がっているかのようだった。
それで余計に私はネガティブな感情に私は捕らわれている。それは紛れもない真実だ。
……というか、おそらくなんらかの圧力はかかっていたんだろうなとは思う。私が排除されずに生きてこれたのは何だかんだお父様達が私を守ってくださったからだと思う。
だから余計に、また同じような目に遭わないかと心配しているのだ。心の奥底で、トラウマは蓄積されていたのだろう。
本当に前世の記憶が思い出せてよかった。
そうじゃないと、私は外に出ることなどは出来なかったのだから。
また以前、外に出ようとした時と同じように何かが起きてしまったら……と考えると恐ろしくはなる。
その恐ろしさを考えないようにするためにも、何かしら動き続けたいとそんな風には思ってしまった。
今の私はもう三十歳だし、長年引きこもっていたから他の貴族たちにとっては脅威ではないだろう。しかし引きこもる前の私は令嬢達の中でもいわゆるカーストトップの存在だった。
そんな存在が落ちぶれていく様子を楽しんでいた人もそれなりに居ただろう。その目が、私は怖くて仕方がなかった。
周りの反応が変わっていくことが辛かった。
暗い考えが頭をよぎる続けたので、私は首を振る。そんなことばかりを考え続けていたら、益々気がめいってしまうだろう。
だからひたすら働くことにした。注文を率先して受けに行き、食事を運んでいく。そうしながら時折、常連客との会話もかわすことになった。
人と喋っていると、気分が紛れてとてもいいなと思う。
人と人とのつながりが、こうして増えていく。今はまだ、マルグレッタ・ミレハーユの知人の数の方が多い。でも平民としての暮らしを行っていけばただのマルグレッタの知り合いの数の方が増えていきそう。
そう、なれたらいいな。
誰にも邪魔をされることなく、私が生きていけるようになれたら一番嬉しい。
午前中の時間帯、必死に働いた。今日は午前中のみの仕事だったので、午後からは魔法の練習と運動をすることにした。
身体を動かした方がいいと判断したからだ。
さて、そんな暮らしをしていたら魔物のスタンピードの噂が流れてきた。
この世界には魔物と呼ばれる存在が生きており、彼らは人々に害を成すものだ。魔物の被害によって命を落とすものも少なくはない。
スタンピードとは、魔物が大量発生してしまう恐ろしい状況だった。




