11.賭けをすべて交わしながら過ごしてみよう
「マルちゃんは、全く異性に興味がなさそうだねぇ」
「ああいう賭け事をしている連中はともかくとして、真剣にマルちゃんのことを思っている相手の気持ちならば答えてもいいと思うけれど」
あの一件以来、私にちょっかいを出してくる男はそれなりに増えた。なんというか……私があまりにも誰にも靡かないため、自棄になっている人も多いようだ。なんだろう、見た目の整っていたりそれなりの立場である男性から口説かれたら、すぐにその手を取る人の方が当然多い。
特に私のように三十にもなって相手が居ないと、焦っている女性の方が多いだろう。
だからなんというか、同じようにといったら向こうに失礼かもしれないが……同じように結婚をしていない女性には私はよく思われていないみたいだ。
ただ幾ら望まれたからといって自分が嫌だと思っている相手に嫁ぐことが素晴らしいとは私は思えない。
前世の記憶を思い出し、それでいて私自身が望まぬ結婚をはねのけられる立場だからこそのそう言えるだけでしかない。
……両親も、お兄様も何だかんだ引きこもっていた私のことを見捨てないでいてくれて、私に対して甘い部分がある。訳ありな人物に嫁がせることだってできなくもなかったのに、そんなことはしなかった。
それに今、私に縁談が来たとしても断ってくれるだろう。私は凄く恵まれているなと思ってならない。
私は結婚は出来ないだろうなとは思っているからこそ、両親やお兄様に心配をかけないようにはしたいな。
……なんというか、引きこもる前は婚約者候補というか、好きな人は居た。その方と結婚するだろうと無邪気に信じていた頃のことを思うと、少しこっぱずかしい気持ちにはなる。いや、だって結構恋に恋していたというか、真っすぐだったのだ。あの頃の私って。
恋にも破れ、色んなことがあって……その結果、引きこもったからもうそのあたりで関わっていた方達とは言葉を交わすこともないだろう。
恋愛感情は流石にもうない。
あくまで恋をしていたのは過去でしかない。それでいて前世の記憶も思い出したからこそ、そう言う気持ちは余計にない。
「良い人が居たら紹介しようか? もちろん、あなたのお兄さんには話を通してからになるけれど……」
私の事情を知っているから、そう言ってくれているんだと分かるけれど断った。
もし仮に私が誰かと一緒に歩む道を選ぶとすれば……その時は私の事情を隠したままは接するつもりはない。私の過去を知っても受け入れてくれる人が居たらまぁ、別かもしれないけれど……。
でもなんだか、未来って分からないものなのだ。
今の私は周りから幾ら誘われても、何か話しかけられても特に心を揺るがされることはない。だけど、この先の私はまた違うとは思う。
だって、人は変化していく生き物だから。
ただ人の幸せな話を聞いたりするのは私は好きだなとは思う。誰かと恋をして、結婚をしたり、恋人と幸せに生きていたりしている人の話を聞くと、幸せのおすそ分けをされているようなそんな気持ちには当然なる。ただあれね、私は自分の今の人生を、幸せではないとは言わない。
寧ろ前世の記憶を思い出したからこそ、私は恵まれているし、幸せ者だと余計に感じる。
私のことを知る人からしたら、私は紛れもなく敗者ではあるだろう。望んだ相手と結婚することなども出来ずに引きこもり、貴族令嬢としての幸せなど手に入らないから。
でも幸せって、それだけじゃない。
私は引きこもって、停滞している日々があったのは確かだ。でもその日々だって、私にとっては無駄だったとは思わない。
長い間、私が引き籠っていた日々は、周りからすると生産性もない日々だっただろうけれど、そうやって休む日々があったからこそ――立ち直れた部分も当然ある。
この世界の平均寿命は、前世よりもずっと短い。それでも私の人生はまだ続いている。これから巻き返すことだってきっと出来るって私は思っている。
幸せの形を、恋とか愛とかでしか考えない人も当然居る。それでも私は自分が幸せなんだって、それは示したいって思っている。
だから傍に居る人たちから何か言われた際も、「私は今の生活で満足しているので」と笑うようにはしている。本心だもの。
あとは嫁ぎ遅れで、色々言われている人も何か出来るんだって思ってくれた方が嬉しいかもしれない。そういう同じ境遇のお友達とか出来てもいいかも?
なんてそんなことを考える。
私にもっと余裕が出来たら、そう言う人たちに会いにいってみたいかも。ああ、でも迷惑かな?
基本的には私から会いに行くと迷惑かもしれないから、そのあたりは調整してからじゃないと無理だけれどもね。
私はそんなことを考えながらも今日も今日とて、ひたすら自分の生活を整えたり、魔法の練習をする日々を続けるのであった。
特に大きな変化はない。




