10.食堂で働く日数を増やしてみよう
「よしっ」
私は朝から気合を入れる。というのも体力がついてきて、仕事にも慣れてきたので食堂で働く時間を増やすことにした。
お金を一先ず溜めて、やりたいことを試してみようとそう思ったから。それに宝石などを売ったお金があるとはいえ、働いたお金だけで生活できるようになるのが一番良い。
だから一生懸命頑張ろうと思う。
私は基本的に接客業務をメインで行っているが、最近ではちょっとした料理の作り方などは教えてもらったりしていた。
料理は少しずつ出来るようにはなっている。
こうして毎日、立ちっぱなしで動きまわっているからこそ少しはやせたとは思う。まだまだ一般的にみれば太ってはいるけれど。
「マルちゃん、こっち」
「マルちゃん、これを頼みたいんだ」
そう言ってお客さんに親し気に声をかけられることも増えた。すっかり常連客ともそれなりに喋る仲になってきた。
常連客の冒険者の一部にはファンのようなものもついているようだ。有名な冒険者の一部は、それこそ前世でいうアイドルか何かみたいに騒がれたりもするみたいだ。
基本的に高位ランクの冒険者は、実力を伴っている者ばかりだけど……中にはそうじゃない人もいるらしい。
たまにこの街に滞在する冒険者――名前をデュドモンもそういう異性から囲まれるようなタイプの存在らしかった。
正直異性に囲まれてキャーキャー言われていたり、お持ち帰りしていたりするらしいデュドモンには近づきたくないなとは思った。が、このデュドモンという冒険者はどんな女性でも一度は口説くらしく私にも声をかけてきた。
かなりめんどくさい。
向こうからしてみれば、私のように太っている自己管理の出来ない女性に自分が声をかけているのだから靡くのは当然と思っていたようだ。あと他の冒険者に「たまにはゲテモノも良い」とかそんなことを言い放っていたので、嫌な気持ちにはなった。
私はこれまでの不摂生などもたたって、今は太っている。ただ引きこもる前は、美人だとは言われていたし、散々見目美しい男女を見たことがあった。
デュドモンは容姿は悪くないけれど、そこそこの見た目であるとしか私は認識が出来ない。そもそも私は異性に現を抜かす気は今のところなかった。
私はもう三十歳を超えているし、この世界は前世よりも結婚する年齢が早いからこの年で誰かとどうこうなるなんて考えても居ない。
それに下手な相手と縁続きになったら、両親やお兄様に迷惑をかけてしまうことは間違いない。
私は平民になることを目指しているけれども、この身に公爵家の血が流れていることは確かなことだ。それは私がどれだけ否定したとしても変わらない。
私の過去とか、出自を知った上で私のことを受け入れてくれる人がいるのならば別だけど、そうじゃない相手の方がずっと多いだろう。
折角お兄様は、私のことを見捨てずに送り出してくれたのだ。そんなお兄様の気持ちを裏切るような真似はする気はない。
でもまぁ、もし仮に誰かと恋仲になったりしたら真っ先にお兄様には相談することにはなるだろうけれど。
さて、働く日数を増やした私の元にムキになったデュドモンがよくやってくるようになってしまった。
私が靡かず、そっけない態度をしていることにプライドが傷つけられたようだ。
……学園に通っていた頃は、王族や貴族達と散々絡んでいたし、デュドモンよりも高位ランクの冒険者に護衛についてもらったこととか、そういう経験も当然ある。
デュドモンは確かにこのあたりの冒険者の中ではランクは高い方だし、見た目は悪くない。でもそれだけである。もっと有名な冒険者は幾らでもいる。
食堂の店主夫妻は私の身分なども知っているし、デュドモンを止めていたがそれでもしつこかった。
デュドモンのファンらしい女性たちから軽い嫌がらせも受けたが、このくらいどうとでもない。大体、貴族たちのいじめの方が陰湿だし、命の危険などもないものだしね。
ただ言い返したり、ちょっとした仕返しを行ったら大人しくなった。中には人を雇って何かを行おうとした人もいたようだけど、それはお兄様がつけてくれている護衛がどうにかしてくれたらしい。流石に目に余る行動だったようだ。
最近ではちょっとした賭けもされているらしく、私はちょっと不快な気持ちになった。
その賭けとは、私がデュドモンに靡くかどうかというものだった。何れ私が靡くのでは? と思っている者は大多数らしい。賭け事の対象にされるのって、少し嫌な気持ちになった。
リグシャン達などの親しい常連客には心配されたが、私は当然のことながらデュドモンに靡くことはなかった。
ちなみにそれらの騒動はデュドモンが街を去ったので一先ずおさまった。
ただこれらの一連の出来事で、私があまりにもデュドモンに靡かないので便乗者が沸いてしまった。私を口説いて靡くかを試す連中が何人か現れて、何とも言えない気持ちになった。




