9.相変わらず魔法の練習を続けてみよう
「これで、よし……」
魔法の練習を引き続き進めている。ずっと魔法を使うことを怠っていたのもあって昔と比べると上手く作動しないこともある。
――以前使っていた魔法の使い方を忘れてしまうぐらいに、私は魔法から離れていた。
そのことを実感して何とも言えない気持ちになったりする。私は多くの時間を無駄にしてしまっていた。
そのことをもどかしい気持ちになって、もっと早く前世の記憶を思い出していればよかったのにと後悔する気持ちは当然ある。
だけれども――過ぎ去ってしまった時間に関しては、どうしようもないのだ。だから、うじうじしないようになるべく気をつけよう。
魔法は、以前と同じようには使えない。
昔、私の魔法を賞賛していた人たちは、今の私を知ったら馬鹿にしたように笑うかもしれない。そんな視線を向けられた時に、堂々と出来る私にはなりたいな。今はまだ……そんな視線を向けられたら、耐えられないかもしれないから。
私は弱いな、とそう思うと少し情けない気持ちになる。
幼い頃の私は、自分のことをまるで無敵な存在か何かのようにそう思っていた。何だって出来て、敵なしで、それこそ自分本位な性格すぎて、一部からは嫌がられていたのかもしれない。
ただそれだけじゃなくて、昔の私はカリスマ性のようなものもあったとは思う。あくまで自分でそう思っているだけだけど……。
「マルちゃんは今日も魔法の練習か?」
私は考え事をしながら、魔法を使っていた。そしたら声をかけられた。声をかけられると思っていなかったからびくりっと身体を震わせてしまう。
「驚かせたか? すまない」
そう言って申し訳なさそうにしているのはリグシャンであった。
「考え事をしていたから、気づかなかったの。謝らなくて大丈夫よ。魔法はもっと使えるようになりたいから……」
「魔法を使って何かしたいのか?」
そう問いかけられる。
私はその言葉になんと答えたらいいか分からなかった。リグシャンは私に対して、嫌な感情は向けてこない。獣人だからこそ、人間とは違う感覚なのかなとかは思う。
私は周りからしてみれば、ふくよかで生活習慣をきちんと出来ていないおばさんでしかない。それに今更魔法を使おうとしている変な女性ではあるだろう。
……ちょっとずつ痩せてはいるとは思うけれど、まだまだ私は太っている。
食堂では一生懸命働いてはいるけれど、その見た目から嘲りの目を向けられることもある。
何だかんだ喋ってくれる食堂のお客さん達の中でも、私のような見た目の物を良く思っていない人は多いのだ。まぁ、それもそうだ。
ただリグシャンは獣人なので、見た目だけで人間を見ているわけではないのだろう。そのことはほっとする。
「昔、私は今よりもずっと魔法が使えていたの。ただちょっとしたきっかけで魔法を使わなくなってしまって……使えるようになりたいなと思っているだけ。ただ魔法を使って何かをしたいとかは……何もないわ」
幼い頃の私は、魔法使いとして生きて行く道も考えていた。だけれども、今の私は違う。
魔法を生業にしようとか、そんなことは何もない。明確な目標はないけれど、ただ魔法をまた使えるようになりたいとしか考えていない。
「ふぅん。そうなのか」
「ええ。そうよ。……子供みたいと思うかしら?」
「別に構わないと思う。魔法を使えるようになったら、冒険者登録するのもありじゃないか? 採取とかなら、マルちゃんでも出来ると思うが」
「冒険者……。うーん、ちょっと考えてみるわ」
私の子供みたいな発言を聞いてもリグシャンは馬鹿にはしなかった。寧ろこの年から冒険者になるのはどうかとそう提案さえしてくれた。
こうやって自分のことを否定せずにいてくれる人が居ると安心出来る。私のやっていることって、「今からそんなことを出来るわけない」とか「その年で魔法を学んでも仕方がない」とか、そんなことを言われても仕方がないものだから。
それにしても冒険者登録か……。
私の魔法が昔と同じように使えるようになったならば、冒険者としてやっていくことなども問題なく出来るだろう。実際に学生時代に魔物討伐などもしたことはあったから。
今はまだ生活を整えることを考えて、行動することしか出来ない。
魔法をまた使えるようになって何をしたいとか、そんなものは明確にはない。
――けれど、もっと生活が整ってきたら。
きっとそうしたら私だってやりたいことが沢山芽生えてくるんだろう。もう三十歳だけど、やりたいことはなんでもやってみたいな。
私はそんな風に思ってならなかった。
その後、リグシャンとは少しだけ話してそのまま別れた。私は魔法の練習を進めながら、ただそんなことを考えた。




