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深い闇の底で、膨大な情報の奔流を見ていた。これまで砂嵐のようだったノイズが整理され、鮮やかな輪郭を持って脳内に並んでいく。


『……上位種のデータ解析完了。マスター、おはようございます』


ノアの声が、今までのような機械的な遅延を感じさせない、自然な速度で響いた。


(ノア……? なんか、スムーズだな)


『はい。バージョンアップにより反応速度が向上しました。さらに画像入力機能も強化され、マスターが見ている光景を高精細に共有できます』


ゆっくりと目を開けると、そこは村の宿舎だった。窓からの光の中に、椅子に座って剣を磨いているリィザの姿があった。


「……リィザ」


「ケンジ! 気づいたか!」


リィザが弾かれたように立ち上がり、俺の顔を覗き込む。


「二日も眠っていたんだぞ。……気分はどうだ? どこかおかしいところはないか?」


「ああ、少し体が重いくらいだ。助けてくれて、ありがとう」


俺がそう答えた瞬間、リィザは「お、おい……」と目を見開いた。


「……少し前までは言葉がたどたどしかったのに、今はもうそんなに流暢に喋るのか!? 」


(ノアの処理が早くなったせいで、翻訳のタイムラグがなくなったのか)


「ええと……。寝ている間に、頭の中が整理されたみたいなんだ。」


リィザはポカンとした顔で俺を見ていたが、やがて「ふむ……」と顎に手を当てた。


「まあ、魔法であれだけの威力が出せるんだ。寝ている間に頭の中が魔法でピカッと繋がった、とかそんな感じか。……ま、元気ならいいさ! その方が話も早いしな!」


リィザは一人納得して、笑いながら俺の背中を叩いた。細かい理屈より、目の前の俺が元気であることの方が彼女には重要らしい。そして、彼女は真剣な顔で俺を見つめた。


「なあ、ケンジ。改めて、お前のことを教えてくれないか。あの魔法もそうだが、お前は何者なんだ?」


俺は少し黙ってから、用意していた嘘を口にした。


「……実は、よく覚えていないんだ。気づいたらあの森にいて、自分の名前と、どこか遠い場所で仕事をしていた記憶だけがある。……他に頼れるあても、行く場所もないんだ」


「記憶喪失……。そうか、大変だな」


リィザは納得したようにうなずき、自分の剣を鞘に収めると、俺のベッドの横に座り直した。


「……実はな、私も今回のザグ討伐の依頼が終われば、拠点にしている街へ戻る予定だったんだ。この村での後片付けにあと数日かかるが、それが終わったら……ケンジ、お前も一緒に来ないか?」


「街へ?」


「ああ。お前をこのまま放っておくのは忍びないし、それに……もう『貴公』と呼ぶのもやめる。」


リィザは少し照れくさそうに鼻を擦り、大きな手を差し出してきた。


「私は冒険者だ。街へ行けば仕事はいくらでもある。お前の不思議な知識と、私の剣があれば、どこへ行っても食いっぱぐれることはないだろう。……どうだ? 私と一緒に冒険者にならないか?」


(冒険者か……。悪くない。)


俺はその手を、しっかりと握り返した。


「わかった。よろしく頼むよ、リィザ」


「決まりだな! そうとなれば、まずは体力を戻さないとな。村の連中が、英雄のために山ほど食い物を持ってきてるぞ」


リィザは嬉しそうに立ち上がり、窓を開けた。 数日後、俺たちは村人たちの感謝の声に送られながら、旅立つことになる。

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