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カッセル砦の正門をリィザがくぐった瞬間、地鳴りのような歓声が沸き起こった。昨日まで彼女を「お嬢さん」と呼び、侮っていた兵士たちが、今は拳を突き上げ、喉が裂けんばかりに叫んでいる。
「リィザ様万歳! カレンベルクの守護者、万歳!」
その熱狂を、リィザはどこか他人事のように聞き流しながら歩を進める。背後では、負傷し、戦意を喪失したレムリアの騎士たちが、砦の兵士たちによって次々と収容されていく。
リィザがケンジの元へ向かっていると昨夜の宴会で無礼を働いた兵士たちが固まって立っていた。彼らは一様に青ざめ、直立不動で震えている。
「……あ、あの、リィザ様。昨日は酔っていたとは言え大変な無礼を」
リィザは冷ややかな視線を彼らに向け、短く吐き捨てた。
「……謝る暇があるなら、その鈍った体をどうにかしなさい。あんな騎士団に手も足も出ないなんて、グランヴェールの兵として恥ずかしくないの?」
「は、はい! おっしゃる通りです!」
「なら、今から私が鍛え直してあげる。……カレンベルクでやっていた特訓よ」
「は?」と兵士たちが呆けた声を上げた瞬間、リィザの「教導」が始まった。
「立て! 走るわよ! 鎧を脱ぐのは禁止!」
砦の広場からは、瞬く間に兵士たちの悲鳴と、リィザの容赦ない叱咤が響き始めた。
「兵士たちにはもっと強くなってもらわないといけないからな」
その喧騒を背に、ケンジは苦笑しながらそう呟くと救護所へと足を運んだ。
「……失礼。容体はどうですか」
「ああ、ケンジ殿。……命に別状はありませんが、連日の疲労で傷の治りが遅くて」
「(簡易)ヒール」
柔らかな光が負傷兵たちを包み込む。痛みに歪んでいた彼らの表情が、見る間に穏やかになっていく。
「……土魔法のみならず回復魔法まで使えるのですか!」
「少しだけですがね。次はどなた?」
一通りの治療を終えると、今度は地下の雑居房、レムリア兵たちが収容されている区画へと向かった。
そこには、ガストンが鎖に繋がれることもなく、壁に背を預けて座っていた。
「……ガストン殿。居心地はいかがですか」
ガストンは顔を上げ、自嘲気味に笑った。
「……敗軍の将に、これほどの食事と寝床を用意するとは。貴殿は何を企んでいる」
「ケンジです。企む、というほどではありません。私はただ雑談をしに来ただけです」
ケンジは淡々と問いかけた。
「……あなた方のレムリア王国はこのアルザス平原をわれらグランヴェール王国と長年争っていますが、何故でしょう?それほど価値があるとは思えませんが」
「……ケンジ殿、アルザス平原はかつてレムリア領土であった土地。それを奪い返すことに価値が無いなどと言ってくれるな。我が王の威信に賭けて戦わねばならないのだ」
ガストンは溜息をつくと、観念したように口を開き始めた。
(マスター、ガストンの態度や声色から真実と思われます。レムリア人の考え方を学びたいので引き続き会話をお願いします)
カッセル砦ではリィザの「厳しい鍛錬」とケンジの「静かな情報収集」が始まった。




