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朝日がアルザス平原を照らし出す頃、レムリア王国の重装騎兵団が、地鳴りのような足音と共にその姿を現した。その中央から、一人の騎士が進み出る。
「我こそはレムリア第三騎士団、分隊長レオナール! グランヴェールの勇士よ、正々堂々、一対一の決闘を申し込む!」
砦の兵たちが固唾を呑んで見守る中、新設された外堀の向こう側に立つリィザは、ただ静かに腰の剣に手をかけた。
「……いいわよ。我こそはカレンベルク家のリィザ。……来なさい。剣の錆にしてあげるわ」
咆哮と共に馬を駆った。鋭い槍の穂先がリィザの喉元を正確に狙う。しかし、彼女は最小限の動きでそれをかわすと、すれ違いざまに騎士の脇腹を強打した。
衝撃音一つ。騎士は地面に転がり落ちた。
「次。……まとめてきてもいいわよ」
リィザの挑発に、レムリア側が色めき立つ。その後も中堅どころの騎士が次々と名乗りを上げて突っ込むが、次々に落馬していく。
「……強いな。私が行く!」
ついに、騎兵団の奥から巨大な体躯の男が歩み出た。豪華な装飾が施された鎧を纏い、身の丈ほどもある大剣を担いでいる。
リィザの前で足を止め、兜を脱いで深々と一礼した。
「レムリア王国、第三騎士団副団長ガストン。……貴殿のような強者と剣を交えられること、騎士として光栄に思う」
「リィザ・カレンベルク。……受けて立つわ」
「――参る!」
ガストンの大剣が、空気を切り裂く轟音と共に振り下ろされた。地面が爆ぜ、砂塵が舞う。リィザはそれを剣の腹で受け流すと、火花を散らしながら至近距離での打ち合いに転じた。
鋼と鋼がぶつかり合う重い音が戦場に響き渡る。ガストンの剣筋は重く、鋭かったが、リィザの動きはそれを遥かに上回る速さで急所を突いていく。
数合の後。リィザが最小限の踏み込みでガストンの懐に潜り込んだ。
「……終わりよ」
一閃。ガストンの大剣は手元から弾き飛ばされ、その喉元には切っ先が寸分突きつけられていた。
「……見事だ。私の負けだ。殺せ」
「殺しはしないわ」
ガストンが膝をつくと、主を失ったレムリアの兵士たちは、その圧倒的な武威に戦意を完全に喪失し、我先にと逃げ帰っていった。
砦の上でその光景を見ていた守備隊長が、震える声でケンジに尋ねた。
「……ケンジ殿。リィザ殿は何者ですか? 相手はレムリアでも名の知れた猛将ですよ。それを、あんな……」
さも当然といった様子で答えた。
「……以前、魔族の将軍を1対1で倒していますからね。勝てる人間はあまりいないと思いますよ」
「ま、魔族の、将軍……!?」
絶句する隊長をよそに、ケンジはリィザに念話を送る。
「リィザ、お疲れ。砦に戻ってきてくれ。転がっている連中は兵士たちに回収してもらうよ」
「了解」
リィザは砦の兵士たちの大歓声と畏敬のまなざしの中を帰還した。




