22
カッセル砦の夜は、数ヶ月ぶりに響く笑い声に包まれていた。ケンジが持ち込んだ酒と食料は、飢えていた兵士たちの心と体を解きほぐしていく。
「……なあ、リィザさんよぉ」
焚き火を囲む宴の席。酒が回り、気が大きくなった一人の兵士が、リィザの隣に腰を下ろした。
「あんた、昼はレムリアを叩き潰すなんて言ってたがお嬢さんにできるのかい? 悪いが、俺たちにはお貴族様の道楽に見えちまってな」
守備隊長は止めようとするがリィザが手で制す。
周囲の兵たちも、興味津々といった様子で野次を飛ばすが、リィザは手元のエールを一口飲み、面倒くさそうに視線を上げた。
「……やめておきなさい。怪我するわよ」
「ははっ! 振られたぜ! 食料補給と砦の補強は助かったが、防衛は俺たちの領分だ。奥で引っ込んでな」
様子を見ていたケンジが声をかける。
「リィザ。……適当に相手をしてやったらどうだ。ただし、明日の防衛に支障が出るような骨折はさせるなよ」
「……そうね。舐められたままだとやりにくいし、ほら、手出しなさい。力比べよ」
リィザが机に腕を置く。大男の兵士がニヤつきながら手を握りる。
「……いつでもいいわよ」
「……舐めやがって」
兵士は全力で力を込めた。だが、リィザの腕は微動だにしない。
「……ぬ、ぬおおお!? なんだ、動かねぇ」
しばらく兵士の様子を涼しげに眺めていたリィザが少しだけ力を込めた瞬間、ドォン! という重い衝撃音が響いた。
兵士の腕が机に叩きつけられ、地面に倒れていた。
静まり返る兵士たち。リィザは何事もなかったかのように残りのエールを飲み干した。
他の兵士も次々とリィザに勝負を挑むが全く歯が立たない。
「……守備隊長殿、我々はただあなた方の慰労に来たわけではありません。戦争をしに来たんです。また明日説明しますので、あまり遅くならないうちに休んでください」
ケンジはそう言うとリィザと共に静まり返った宴会を後にした。
深夜、ケンジとリィザは外壁の上に立っていた。
(マスター。前方五百メートル、レムリアの偵察隊三騎。……停止しています)
ノアの声が響く。
「……帰ったわね。夜襲は諦めたみたい。私たちも休みましょうか」
偵察隊は、昨日までなかったはずの深い外堀と、補強された外壁を前に、明らかに狼狽し、撤退していった。
翌朝。重厚な角笛の音が響き渡った。
レムリア王国の本格的な攻勢。昨日の先遣隊とは比較にならない、百騎を超える重装騎兵団が隊列を組んで迫ってくる。
「総員、配置につけ! 敵襲だ!」
守備隊長の叫び声に、兵士たちが武器を手に取る。だが、すでに外堀の向こうにリィザが立っている。
「準備はいいか、リィザ」
砦の壁から見下ろすケンジが念話で問いかける。
「もちろんよ。久しぶりに暴れてくるわ」




