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森の湿った空気が、肌にまとわりつく。俺はリィザの後ろを歩きながら、頭の中で組み立てた「作戦」を何度も反芻していた。
「リィザ、止まって。ここが一番いい」
俺の言葉に、リィザが鋭い目つきで周りを警戒する。そこはザグの巣へと続く細い道で、片側が切り立った崖になっている一番危ない場所だった。
「ここで罠を仕掛ける。リィザはあっちの岩の陰に隠れて。俺が合図をしたら、転んだザグを倒してほしい」 「罠と言っても……本当にこの肉だけで上手くいくのか?」
リィザは、俺が村でもらってきた「獣の生肉」を不思議そうに見つめている。俺はその肉を、道の先にある曲がり角の、一番見えにくい場所に置いた。
「……あいつらは卑しいからな。ノア、ここの地質を解析できるか?」 『……表層の粘土質は確認できますが、地中の空洞や隠れた生体反応までは、現状の演算能力では把握できません』
万能ではない。ならば、自分の手で確かめるしかない。 俺はしゃがみ込んで地面を叩き、感触を確かめた。そして「土」の魔法を使い、肉の手前の地面だけ、内部の密度をスカスカに変えていく。見た目には分からないが、踏むと一気に崩れる「落とし穴」を泥臭く手作業で作ったのだ。
「……来たぞ」
リィザが低くつぶやく。茂みの奥から、嫌な鳴き声と一緒に、五匹のザグが姿を見せた。
「ギギッ!? ギャアア!」
肉の匂いに気づいたザグたちが、我先にと走り出す。だが、彼らが肉に飛びつこうと勢いよく踏み込んだ瞬間、俺が魔法で脆くしておいた地面が音を立てて崩れた。
「ギャッ!?」「グアッ!」
一匹が膝まで埋まり、後ろから走ってきた奴らがそれに躓いて重なり合う。計算通り、足場が悪くなったせいで、彼らは隙だらけになった。
「今だ!」
俺の合図で、リィザが弾丸のように飛び出した。 「はあああっ!!」 彼女の剣が、動けなくなったザグを次々と、正確に仕留めていく。リィザの剣技は恐ろしいほど鋭く、俺が魔法で足を止めるまでもなく、瞬く間に敵を片付けてしまった。
「ふぅ……。ケンジ、終わったぞ。お前の罠、面白いように効いたな!」
彼女はふっと視線を森の奥へと向けた。
「……だが、妙だな」 「……え?」
リィザは剣を握り直した。 「この程度の連中に、村の男たちが遅れを取るとは思えん。戦い方もバラバラだ。ただの野良の獣と変わらんぞ」
彼女の言葉に、俺の背筋に冷たいものが走った。
「ケンジ、気を引き締めろ。……この雑魚どもをエサにして、私たちを誘い込んだ奴が他にいるぞ」
リィザの顔が、これまでになく険しい。 さっきの戦いは、単なる「前座」でしかない。この先に、もっと統率の取れた、本当の脅威が潜んでいる。
「……いるんだな、もっとデカいのが」
俺の言葉に、リィザは「ああ」と短く答え、鋭い目つきで真っ暗な森の奥を睨みつけた。




