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翌朝、ハンスに案内されて、最初の専門家が客室にやってきた。
「物流ギルドの長、ドラン殿です。国境の輸送を仕切る現場の責任者です」
「……ドラン殿、よろしくお願いします。単刀直入に伺います。今、ガレリア国境で奪われているのは何ですか?」
挨拶もそこそこに、ケンジは本題に入った。ドランは少し戸惑いながら答える。
「……何って、金目のもんだ。宝石や武器、それから馬も盗られる」
「十年前の記録では、確かに宝石が七割でした。でも、私が街で聞いた話は違います。……最近は、中身が『麦』や『干し肉』の地味な荷車ばかりが狙われていませんか?」
「……! ああ、その通りだ。最近の連中は、金よりも食い物に目がなくてな。おかげで運送代より、食糧の損失の方がひどい有様だ」
(マスター。現場の証言を確認。ガレリアの略奪は、組織的な軍事行動ではなく『空腹による暴走』です。)
ケンジはその後も1時間質問攻めにし、ドランはへとへとになって帰っていった。
次に農学博士、ボルツを呼び寄せた。
「博士。レムリアと争っている北西部の平原の『今の収穫高』を教えてください」
「……ああ、ひどいものだ。寒冷化で麦は全滅。今は痩せた土地で雑穀を作っている状況だ」
「なるほど。つまり、レムリアが欲しがっている北西部の平原は、今となっては大してうまみのない土地になっているというわけですね」
ボルツはケンジが興味をもって話を聞いてくれるので嬉しそうに帰っていた。
最後は、戦史編纂官のミィナだ。
「ミィナ殿。レムリア騎士団の『今の食糧事情』はどうですか? ……立派な戦史ではなく、彼らが実際に一ヶ月以上の戦いに耐えられる備蓄を持っているかどうか、肌感覚でいい」
「……彼らは名誉のために『十分だ』と言い張っているわ。でも、補給部隊がいつも悲鳴を上げている。……彼らのプライドが、現実の苦しさを隠しているのよ」
ミィナは白熱した議論ができて満足げだった。
数時間に及ぶヒアリングを終え、ハンスは入ってきた。
「……ハンス、ありがとう。これで数字と現実が繋がった」
ケンジは、ノアの計算結果を静かに書き留めた。
「ガレリアは、戦いたいのではなく『食べたい』だけだ。レムリアは『誇り』を守ろうとして限界に来ている」
リィザはケンジの横で、ポーションを飲みながら彼のメモを覗き込む。
「……リィザ。これで王に提案できる。……レムリアとは戦う。彼らが破綻するまで。飢えたガレリアとは手を結ぶ。北西部の平原がカギだ」
「……二つの火種をまとめて解決するのね」
「ああ。俺のやり方が分かってきたな」
ケンジはリィザの方見てニヤリと微笑む。




