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王都の各部署を巡り、リィザの魔力を借りて行った「高速監査」は、驚くべき速さで収束に向かっていた。
「……以上が、軍務局および徴税局の修正リストです。軍務卿らによる組織的な不正を除けば、現行の予算でも国家運営に致命的な欠陥はありません」
ケンジは、ノアが弾き出した最終報告書を王に差し出した。
「細かな入力ミスは散見されますが、これらは王都の事務官たちでも修正可能な範囲です。彼らは優秀です。修正リストを見れば同じ間違いをしないように対策も考えるでしょう」
王は報告書を一瞥し、深く息を吐いた。「……わずか数日で、ここ数年分の監査を行ったのか……。カレンベルクは良い人材がいるのだな……。……だが、厄介なのはここからだ」
王が地図を指し示す。王国は、停戦したばかりの魔族の国以外に、二つの人間国家と国境を接し、一刻を争う緊張状態にあった。
「西のレムリア王国。そして南のガレリア帝国だ」
王は続けた。
「西のレムリアは、北西部の肥沃な平原の領有権を五十年近く争っている宿敵。彼らにとってあの土地は実利というより、王家の誇り……いわば『メンツ』の問題だ。一方、南のガレリア帝国。寒冷化による不作で食糧自給率が低下しており、南部の鉱山地帯を奪おうと機会をうかがっておる」
(マスター。レムリアは感情論で動いており着地点が見えにくいですが、ガレリア帝国は目的が『経済的飢餓』に直結しています。数字での解決が容易なのは後者と思われます)
ケンジは地図から視線を外し、王に向き直った。
「陛下。現状の把握はできましたが、対策するためにはヒアリングと調査の時間が必要です。3日お時間をください」
ケンジの言葉に、王は満足げに頷いた。「よかろう。部下たちには協力するように伝えてある。期待しているぞ。それと客室に茶と菓子を用意させておいた一息つくがよい。」
「……承知いたしました。ありがとうございます」
ケンジは深々と一礼し、リィザを伴って私室を後にした。
廊下に出ると、ケンジは一つ、長く深い溜息をついた。
「……リィザ。疲れたな」
リィザは黙って頷き、ケンジの隣を歩く。怒涛の数日間を終え、二人には何よりも休息が必要だった。




