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謁見の間での騒動が収束した後、ケンジとリィザは王宮の奥まった私室へと招かれた。そこには玉座での威圧感を脱ぎ捨て、一人の統治者として地図を見つめる国王の姿があった。
「カレンベルクの使者、ケンジよ。先ほどの見事な糾弾、鮮やかであった」
王は振り返り、その鋭い眼光をケンジに向ける。
「だが、膿を出した代償は大きい。軍務局は機能不全に陥り、隣国はこれを好機と見て攻勢をかけてくるかもしれん。……この混乱を収め、兵站を整えるのを手伝ってはもらえんか」
ケンジは深く頭を下げ、まずは本来の役割を果たすべく、懐から封書を取り出した。
「その前に、陛下。カレンベルクの正式な停戦報告書でございます。魔族の王とカレンベルク領主の間で、不可侵の合意がなされました。」
王は報告書を受け取り、食い入るように目を通す。
「……事実ならば、これ以上の朗報はない。だが、他の隣国の問題は残っておる。こちらもなんとかせねばならない。報酬も用意させよう。どうだ?」
沈黙が流れる。ケンジは再び口を開いた。
「……陛下。私は一介の使者に過ぎません。それに、よそ者の口出しを嫌がる者もおりましょう」
王はケンジの瞳の奥にある意志を読み取り、ふっと口角を上げた。
「……なるほど。しかし、此度の混乱はお主にも責任がある。カレンベルクの使者であれば、断ることがカレンベルクにとってどのような意味を持つか分かるな? せめて混乱が収まるまで、力を貸すのだ」
「……御意。陛下の御心に添えるよう、尽力いたします」
こう出られると断りようがない。王はニヤリと満足げに微笑んだ。
翌日から、王宮の各部署を巡る「高速の監査」が始まった。
「リィザ。すまないが、君の魔力を借りる。……昨日より少し負荷が上がるが、いいか?」
ケンジはリィザに向き直り、真剣な眼差しで問いかけた。
「もちろんよ。私の魔力でケンジの頭がもっと冴えるなら、いくらでも使って」
リィザは力強く頷き、ケンジの背中にそっと手を添える。
(マスター。リィザ様の高密度の魔力回路を、演算補助サーバーとしてリンク。停戦後の余剰物資と、隣国への防衛資源の最適化計算を開始……。負荷が増大します。バイタルを監視しつつ実行します)
ケンジは膨大な書類の山をノアの解析で処理していく。その傍らで、リィザの額にはじわりと汗が浮かんでいた。
「……リィザ、大丈夫か? 少しペースを落そうか」
「ううん……大丈夫。なんだかクラクラするけど……一緒に戦ってる感じがして、嫌じゃないの」
リィザはフラつきながらも、壁にもたれてついてくる。周囲の官僚たちには、リィザの衰弱ぶりが異様だった。
「……おい、リィザ殿の顔色を見ろ。なぜあそこまで消耗しているんだ?」
周囲の困惑を余所に、ケンジとリィザは次々に国の状況を確認していく。




