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王宮の最深部、静寂が支配する謁見の間。
玉座に座る国王の鋭い眼光が、末席に控えるケンジとリィザを射抜いていた。王国の重鎮たちが居並ぶ。
「……以上が報告のすべてです。カレンベルクの言う停戦など、現場の混乱が生んだ妄想に過ぎません」
監査官が、昨日必死に書き換えていたであろう「公式帳簿」を掲げた。
「この帳簿に記された物資の動きこそが、戦争が継続している何よりの証拠。これ以上の真実など、この世のどこにも存在しません!」
王が重々しく口を開く。
「カレンベルクの使者よ。この完璧な記録を前に、反論はあるか?」
ケンジは一歩前へ出た。
「陛下。その帳簿は、確かに計算上の整合性は取れています。……ですが、それは『清書』されたものに過ぎません」
「清書だと? 何を愚かなことを!」監査官が鼻で笑う。
「原簿があるはずだ。……監査官殿、その原簿と今の帳簿、照合させてもらえますか?」
監査官の眉がピクリと跳ねた。
「……原簿など存在せん!」
「昨夜、あなたが軍務局の『特別管理書庫』、三番棚の奥にある黒塗りの長持ちの中に、大切そうにしまい込んでいた分厚い記録簿……あれは何だったのでしょうか?」
謁見の間が、水を打ったように静まり返った。監査官の顔が、見る間に土気色へと変わる。
「な、なぜそれを貴様が……! いや、そもそも原簿などない。 陛下、この者の言うことを信じてはなりませぬ」
「語るに落ちたな。……陛下。『特別管理書庫』を確認していただけませんか? もし、なければ私は不敬罪で牢に入りましょう」
王の指先が、スッと動いた。
「……行け。中身を確認して参れ」
やがて、近衛兵たちが一冊の重厚な帳簿を抱えて戻ってきた。
王の前で開かれたそのページには、物流ギルドへの過剰な支払いと、そのキックバックの額、そして――。
「……バカな、どうして……!」
崩れ落ちる監査官。彼は救いを求めるように、王の隣に立つ軍務卿の方を見た。あいつが『あのお方』か。
「閣下!侯爵閣下! お助けてください! 私はあなたの指示通りにしただけです」
「黙れ、見苦しい! 貴様のような下級役人の妄言など、誰が信じるか!」
侯爵が激昂する。王は近衛兵たちに指示を出し、連れていかれる侯爵と監査官。
リィザは呆然としながら、隣で静かに眼鏡を拭くケンジを見ていた。
「……ケンジ。怖いくらいに上手くいったわね」
「奴らが自滅しただけさ。……さあ、リィザ。これでようやく、カレンベルクの本当の報告ができる」
ケンジは王に向き直り、今度こそ「真実の停戦報告」を始めた。




