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翌朝。ケンジは買い込んだ菓子で脳をフル回転させる。
隣では、リィザが慣れない礼装に身を包み、窮屈そうに肩を回している。
「本当にこの格好で王宮に行くの? 剣も預けなきゃいけないなんて……」
「正攻法で行くなら、相手のルールに従うのが事務の基本だ。大丈夫だ、交渉は俺がやる」
ケンジは自分に合うサイズのジャケットを羽織り、自信に満ちた表情で王宮の門を叩いた。
通されたのは、軍務局の分室だった。そこにはうず高く積まれた書類の山と、疲れ果てた表情の若手官僚たちがひしめき合っている。
「カレンベルク? 悪いが今は手が離せない。隣国との戦費計算と記録整理でパンク状態なんだ。話を聞くのは来週にしてくれ」
責任者らしき官僚が書類に埋もれながら吐き捨てた。ケンジはすかさず、デスクに積まれた「乱雑な書類」へ目を向けた。
「整理をお手伝いしましょう。事務処理は得意なんです。……リィザ、あっちの棚の束をこちらへ」
「はい!」
彼女はケンジの指示に従い、男性数人がかりで運ぶような膨大な書類の束を、騎士の筋力で軽々と持ち上げ、次々と整理の進むデスクへと運び込む。
「なっ……おい、あの令嬢、あんな重い書類の山を一人で!?」
若手官僚たちが呆然とする中、ケンジはリィザが運んできた書類を瞬時にノアでスキャンし、整理を開始した。
「この項目は重複。ここは計算ミス。……リィザ、次はあっちの青い紐の束を」
(リィザ様、三歩右の棚の最上段です。)
「了解!」
リィザの超人的な「力仕事」と、ケンジ(ノア)の「超高速整理」。二人の連携により、数日かかると見られた書類の山が、見る間に整然とした記録へと変わっていく。
夕暮れ時。会議室は、信じられないほど片付いていた。
疲弊していた若手官僚たちは、あまりの効率の良さに「救世主が現れた」とケンジとリィザを囲んで感謝を述べていた。
「助かったよ。ケンジさんの整理術も凄いが、リィザさんのあの馬力……いや、手際の良さには驚いた。おかげで一ヶ月ぶりに早く帰れそうだ」
「いえ、礼には及びませんよ」
ケンジは笑顔で応え、リィザも少し照れくさそうに笑う。和やかな空気の中、ケンジはさりげなく本題へ誘導した。
「しかし、これほど書類が溜まるということは、やはり隣国との戦いは相当激しいのですね? 街道やギルドではあまり切迫感を感じませんでしたが……」
信頼を勝ち得たことで、官僚の一人が周囲を気にするように声を潜めた。
「……実を言うと、最前線ではここ数ヶ月、大きな戦闘は起きていないんだ。だが、上層部からは『大規模な侵攻に備えろ』と、連日のように軍事税の追加徴収指示が飛んでくる。現場の俺たちも、この膨大な予算がどこに消えているのか、本当のところは分かっていないのさ」
ケンジの眼鏡の奥で、ノアが鋭く反応する。
(マスター。証言と先ほどの書類データを照合。不自然な支出先が『特定の物流ギルド』に集中していることを検知。さらに、王都の冒険者ギルドの依頼内容とも整合性が取れません。軍費が『軍』以外へ流れている可能性が高いです)
「なるほど……。貴重なお話をありがとうございます。今日はもう遅いので、カレンベルクの状況報告は明日させていただきます」
官僚たちに惜しまれながら王宮を後にしたケンジの目は、昼間の温和なものとは違っていた。
「リィザ、尻尾を掴んだぞ。明日に備えて……甘いものを買いに行くぞ」
「真剣な顔をしていると思ったらそれ?まあ今日はノアが大活躍だったからね。私も買っちゃおっと」
ケンジたちは市場へ向かい、明日に備える。




