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カレンベルクからの馬車が、王都の巨大な正門に到達した。
王国の中心地。そこは、魔族領とは違った殺伐とした雰囲気を持っていた。
ケンジは馬車を降り、検問の列に並ぶ。騎士たちが事務的に書類を確認し、時には賄賂を要求している様子が見えた。
ケンジの番が来た。若い門番が眠たげに通行証を確認する。
「カレンベルクから? ……で、通行料は?」
「我々は公式な使者として来ている。通行料など不要のはずだ」
ケンジの冷静な言葉に、門番は鼻で笑った。
「あ? そんなもの知らねえな。」
明らかな不正。リィザが憤慨するがケンジはそれを制した。
「残念ながら不正に付き合うつもりはない。だが、軍務規定の第103条にある『不正事項』に該当すると思うがどうだろう?」
「軍務規定だと……?」
門番の顔が青ざめる。
「も、もういい、早く通れ」
「当たり前だ。次は無いぞ」
王都の内部は、外の街道とは違った歪な活気に満ちていた。
貴族の馬車が我が物顔で通りを駆け抜け、庶民はその影に怯えるように歩いている。
「……ここが王都。通ってきた街やカレンベルクとも違う。独特な雰囲気」
「確かに。……今日は宿を取って、明日王宮に向かおう。その前に……冒険者ギルドへ寄るぞ」
「ギルド? 依頼でもを受ける気?」
「違うよ。情報の収集だ。王都の『今の状況』を最も肌で感じられる場所だからな」
ケンジとリィザは、活気があるようでどこか殺伐とした通りを抜け、冒険者ギルドの重い扉を開いた。
中に入った瞬間、ケンジは掲示板の違和感に気づいた。
(マスター。依頼掲示板の紙の劣化具合から見て、討伐系の依頼が滞留しています)
近隣の討伐依頼は皆無に等しく、そのほとんどが「数日かかる遠方への護衛」や「特定の貴族の荷物運び」、「薬草採集」といった依頼ばかりだった。
ベルトランで日々魔物と戦っていたリィザからすれば、拍子抜けするような状況だ。
カウンターの近くで、いかにも場慣れした強そうな男が、二人の武器と服装を見て声をかけてきた。
「見ねえ顔だな。新人か? このあたりで魔物なんて出ねえよ。せいぜい、貴族様のお使いか、遠くの街への護衛依頼ぐらいだ。ここはな、平和な王都なんだよ」
男は親切に、今の王都の状況を教えてくれた。
その後、二人はギルドを離れ、庶民の集まる裏通りの酒場へ移動した。
「魔族との戦争も長引いているが、実は今、隣国からも攻められているのさ。国境線のあちこちで小競り合いが続いていてな。戦費がかかりすぎて、軍事税を引き上げ続けているんだ。」
重税は貴族の遊興費だけではなく、戦費でも消費されている――それが現在の王都の現実だった。
聞き込みの後、宿に戻る途中でケンジが呟く。
「……チョコレートが食いたい」
(マスター、早急な甘味の摂取を提案します。エッジコンピューティングの効率が二〇%低下しています)
宿に戻る前に市場で果物や菓子を買いあさった。




