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カレンベルクを後にし、馬車は王都へと続く整備された街道をひた走っていた。王国の心臓部へと続く道だけあって、魔物の討伐は徹底されており、危険はほとんどない。
(マスター。リィザ様からの魔力供給により演算能力は安定していますが……一つ、重大な制限事項が検知されました)
ケンジの脳内に、ノアの淡々とした声が響く。
「制限? エッジコンピューティングは安定していたはずだが」
(はい。しかし、データ解析の結果、リィザ様の『睡眠中』、あるいは意識が完全に途絶えた状態では、魔力の供給が停止することが判明しました。現に先ほど、リィザ様がうたた寝をした際、周囲の魔素不足のため、私の処理速度が三〇%まで低下しました)
「まじか…… 」
ケンジは眉をひそめた。脳内回路とペンダントの共鳴は、二人の意識的な繋がりがあってこそ最大効率を発揮するらしい。
道中、いくつかの街を通過したが、ケンジはある異変に気付いた。
王都に近づくほど、通過する街の活気が失われていくのだ。
「……ひどいな。北端のカレンベルクの方がよほど栄えている」
リィザも街の様子を見て、不安げに呟く。
「そうね。なんだか、みんな不安そう」
街の様子を把握するため住民に話を聞いてみる。
「……あんたたち、カレンベルクから来たのかい。あそこは魔族との戦いでひどいらしいじゃないか。この辺はまだ良いよ。」
(マスター、カレンベルクの状況が正しく伝わっていない、もしくは誤った情報が伝わっているようです。話を合わせることを提案します)
「魔族との戦争のせいで、軍事税がどんどん引き上げられてね。商店には重税、農家からは徴発だ。」
ノアの提案に従い、適当に話を合わせることにした。
「そうなのか。俺たちはカレンベルクから逃げてきたところさ。王都はどんな状況なんだい」
「貴族様は肥え太っているらしいが庶民はここと似たようなもんだってさ。かといって行く場所もないしな」
そのあとも話をきいてみたが、上が腐ってるようだ。しばらく愚痴を言い合って話を切り上げる。
ケンジの目つきが冷たく変わる。
(マスターの『怒り』の感情データを受信。深呼吸をお勧めします)




