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王都出立を控え、ケンジは準備を急いでいた。
(マスター、警告。魔族領から離れるに従い、応答速度が低下するものと思われます。事前に対策しておくべきかと。)
「王都での性能低下は許容できないな。あと、以前のような魔素不足を引き起こさないように注意する必要もある。……ノア、対策案を提示してくれ」
(了解。)
ケンジは以前魔族で聞い話を思い出していた。――「精霊樹は、魔力を注げば微量ながら魔素を生成する」という。ケンジは精霊樹で作られた杖に魔力を流し、魔素供給を試みたことがあった。その時は数分で限界が来た。
(マスター、リィザ様に精霊樹でできた何かを身に着けていただき、身体強化の要領で常時魔力を供給いただくのが最も現実的かと考えます。)
「だよな……。とはいえ、リィザの負担は大丈夫なのか?」
(ご懸念のとおり、リィザ様の魔力量は非常に多いですが十分ではありません。さらに、物理的な魔素供給に加え、ハードウェア――すなわちマスターの脳の『未使用領域』を利用することを提案します)
「俺の脳を使う? 」
(エッジコンピューティング、つまり、データの発生源の近くでデータ処理・分析を行う分散型技術です。魔族領へのデータ送信量を削減し、低遅延で高速な処理を実現できます。)
ケンジは一瞬、顔を引きつらせた。自分の脳をAIに貸し出すという未知の体験に、本能的な恐怖がよぎる。
「……その場合のデメリットを教えてくれ」
(了解。デメリットは二点。一点目は、構成上、マスターの深層心理や無意識の思考が一部、私に『データ』として漏洩する可能性があること)
「なっ……」
(二点目は、脳の超高速演算により極度の糖分消費が発生し、強烈な『甘味』を求める体質になる可能性があることです。)
「……こっちはずっこけるような内容だな。一点目は嫌だが仕方がない。二点目は何とかなるだろう。ノア、俺の脳を使ってくれ。早速リィザに相談だ」
(了解。メインプロセスをマスターの側頭葉へ移行……『エッジコンピューティング』を開始します。)
リィザに事情を話すと「いいわよ」とあっさり了解してくれた。
ケンジは精霊樹の枝を精巧に削り出したペンダントをリィザに差し出した。出島の商人から購入したものだ。
「これを身に着けて、日常的に魔力を流してくれ」
リィザはペンダントを受け取り、まじまじと見つめた。
「嬉しいわ。……理由はともかく、あなたからアクセサリーをもらえるなんて思わなかったから。」
喜ぶリィザに対し、魔力を使わせてしまうことをケンジは懸念していた。その様子を見てリィザは続ける。
「私なら大丈夫よ。戦いが終わったおかげで最近私の出番がなかったでしょ、正直ちょっと寂しかったのよ。でも、頼ってくれて、魔力でケンジの役に立てるのが嬉しいの。本当よ」
「……リィザ、ありがとう。頼りにしてるぜ、相棒」
「何なら甘いものも私が用意してあげるわ!」
ケンジは思わず声を出して笑った。
(マスターのポジティブ感情が大量に流れ込んできてます・・・)




