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鳥のさえずりと、窓から差し込む柔らかな光で目が覚めた。


(……あれ、ここは?)


一瞬、いつものマンションの天井を探したが、視界に入ったのは太い木のはりと藁の屋根だった。


身体を起こそうとして、自分の動きの軽さに驚く。 四十代の頃の、鉛を背負っているような重苦しい倦怠感がどこにもない。 久しく感じたことのない、突き抜けるように爽快な目覚めだ。


「そうか……夢じゃなかったんだな」


18歳の肉体というのは、これほどまでにエネルギーに満ちているものだったか。俺は自分の若返った手を握りしめ、その感触を確かめた。


(ノア、起きてるか?)


『……。おはようございます、マスター。 睡眠中に言語データの整理を完了しました。翻訳精度は60%まで向上。 日常会話なら、ある程度補完できます。』


脳内に響く声は、昨日よりもずっと滑らかだ。 俺は軽く伸びをして、外の様子を見るために部屋を出た。


村の広場は、すでに朝の活気であふれていた。 そこで装備を整え直しているリィザを見つけた。昨日のボロボロな姿とは違い、真剣な表情で折れかけた剣を研いでいる。


「リィザ、大丈夫?」


俺が話しかけると、彼女はハッと顔を上げ、信じられないものを見るような目で固まった。


「ケンジ……? もう言葉を話せるのか?」


「……少し。少し勉強得意」


昨日まではジェスチャーでしか通じなかった。それが一晩で、たどたどしいながらも会話になっている。リィザは「驚いた……貴公は本当に何者だ」とつぶやきながらも、どこか嬉しそうに目を細めた。


彼女の状況を聞くと、どうやら騎士団の所属ではなく、一人で活動するソロの冒険者なのだという。


「私はまた、あの場所へ行く。あの魔物ザグは、放っておけばこの村を襲う。……三日後、再び挑むつもりだ」


リィザの瞳には強い決意が宿っていた。 一度は死にかけた相手に、たった一人で再び挑もうというのだ。


「俺、言葉勉強する」


俺はそう言って、広場の子供たちや洗濯をしている女性たちに混じり、言葉を教えてもらうことにした。


だが、そんな穏やかな時間は、一瞬で吹き飛んだ。


広場の隅で食事の準備をしていた女性が、かまどに向かって指をかざしたのだ。


「……灯れ(フィア)」


ボッ、という音と共に、何もない空間から真っ赤な火の玉が生まれ、薪に引火した。


「……っ!? うわあああ!」


俺は腰を抜かさんばかりに飛び退いた。 手品じゃない。ライターも、マッチも、発火石すら使っていない。 今、目の前で「無」から火が生まれた。


(ノア! 今のを見たか!? 火が出たぞ、魔法だ、本物の魔法だ!)


『……。高エネルギーの熱源反応を検出。 ……ですが、燃料もなしに燃焼が維持されるのは物理的に不可能です。 光学的な錯覚、あるいは未知の化学トリックであると疑われます。』


「トリックなわけあるか! あんなに熱いんだぞ!」


ノアは「論理的ではない」と疑っているが、現実としてそこには火が燃えている。 魔法。 この世界は、俺が知っている常識が全く通用しない場所なのだ。


リィザが剣を研ぐ音。 日常の中に当たり前にある魔法。


(……ノア、もしあれが「物理法則」なら、お前なら解析できるはずだろ?)


『……。対象が法則に基づいているならば、可能です。 ただし、理解不能なオカルト現象である場合は、保証できません。』


三日後、リィザは再び戦場へ向かう。 俺はこの「魔法」という未知の要素に勝てる算段を見いだしていた。

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