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飛竜が急降下を終え、王都の中央広場に着地した瞬間、ケンジとリィザは崩れ落ちるように地面に膝をついた。
「……生きてる。地面が……地面が動いてない……」
リィザは地面を愛おしそうに撫でている。
「……その様子では、空の旅はあまり快適ではなかったようだな」
顔を上げると、そこには腕を組み、不敵に笑うゼノスが立っていた。戦場での鎧姿ではなく、礼服を纏っているが、その圧倒的な存在感は健在だ。
「ゼノス……将軍……。出迎え、痛み入るよ」
「よせ。今の私は、王に貴様らの命を保証した『身元保証人』に過ぎん。……それより、街の様子はどうだ」
ケンジはふらつく足で立ち上がり、周囲を見渡した。
人間が想像する「禍々しい魔王の都」ではなく、不気味なほどに静まり返った「終わりの予感」に満ちた街だった。王都は広大だったが、そこには活気というものが絶望的に欠けていた。市場には品物が少なく、歩く魔族たちはまばら、子供の姿はない。
「……ひどいわ。活気がまったくない」
「ゼノス……。案内を頼む。王をお待たせしたくない」
ゼノスは頷くとケンジたちを奥へと案内する。
謁見の間の玉座に座っていたのは、傲慢な支配者などではなく、自らの民が枯れていくのをただ見守ることしかできない、悲しき支配者だった。
「……ケンジ、我らから魔素を奪った人間からの使者よ。まずは此度の訪問の目的を聞こう。まさか、今更謝罪に来たわけではあるまいな」
魔王の鋭い視線がケンジを貫く。そのプレッシャーに冷や汗を流しながらも、ケンジは一歩前に出た。
「いえ、陛下。……まずは『学び』に来ました」
「学びだと? 貴様、我らを愚弄するか!」
側近たちは激昂し、兵たちもざわめいているが、ケンジは動じない。
「私は人間です。魔族の皆様にとって、魔素がなぜ必要で、どのように肉体を支えているのか……私は理解できておりません。また、どのようにして魔素が供給されているかも。まず原因を突き止め、この国を救う方法を考える必要があります」
魔王を真っ直ぐに見据えた。
「陛下。私に一週間の猶予をください。その間、この都で生活し、皆様の魔素の摂取状況、供給元をつぶさに観察したい。原因も分からず手を出すのは、一時しのぎにしかなりません。一週間後、必ずや答えを提示してみせます」
「一週間だと? 悠長な話だ。その間に我が民がどれだけ衰弱すると思っている!」
「だからこそです。私に、この国の『実態』を調べさせてください」
重い沈黙が流れる。ゼノスがニヤリと笑い、魔王に向き直った。
「陛下。私が責任を持って監視しましょう。もし何も成果が出なければ、その時は私の手でこいつらを処分します」
魔王は長く、重い沈黙の後、ゆっくりと頷いた。
「……よいだろう。一週間だ。その間、都のどこへ行くことも許す。だが、もし救えぬと判断したならば――その命、無いものと思え」
こうして、ケンジとリィザの「魔族領・一週間集中調査」が始まった。




