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宿に戻ったケンジを待っていたのは、剣を磨きながら起きていたリィザだった。
「遅かったわね。……何か収穫はあった?」
ケンジはしばらく沈黙した後、夜の断崖で聞いたこと、そしてノアから引き出した「推論」を全てリィザに話した。自分の転生、ノアの演算、そして魔族領の魔素枯渇。それらが一本の線で繋がっている可能性を。
「……つまり、あんたのその便利な力が、知らず知らずのうちに魔族を追い詰めていた……ってこと?」
リィザの声は震えていた。彼女にとって、ケンジの知恵は自分を救ってくれた「希望」そのものだったからだ。
「ああ。俺は魔素を無断で使って、利益を得ていたんだ……。俺のせいで大勢が犠牲になっちまった……」
「ケンジ」
リィザがケンジの言葉を遮った。彼女は立ち上がり、ケンジの正面に立ってその目を見つめる。
「あんたがわざとやったんじゃないってことは、私が一番よく知ってる。それに、その力があったから、私は今ここで生きてるの。……あんたが『壊してしまった』って言うなら、一緒に直せばいいじゃない」
リィザの真っ直ぐな言葉が、ケンジの胸に突き刺さった。
そうだ。後悔している時間は無い。
俺はもう一度敵陣へ向かった。この戦いを終わらせる策を実施するために。
翌朝。カレンベルク領主の館は、殺気立った熱気に包まれていた。
バルトが地図を広げて宣言する。
「好機が来た。魔族の魔力が底を突き、動きが鈍っている。明日、夜明けと共に全騎士団を投入し、一気に殲滅する!」
「待ってください」
ケンジとリィザがドアを開けて入ってきた。
「……また貴様か。軍議に口を挟むなと言ったはずだ」
兄のエリックが苛立ちを露わにする。
「特攻は最悪の選択肢です。魔族が必死なのは、彼らの資源が奪われたからだ。その原因を排除すれば、彼らとは和平を結べる。……俺に、数日の猶予をください。被害を最小がんに抑えて停戦させてみせます」
「停戦だと? 騎士の誇りも知らぬ腰抜けが!」
バルトが机を叩いた。「魔族は根絶やしにすべき悪だ。それがカレンベルクの、いや、人間の国の総意だ! 余計な口出しをするなら、牢に叩き込むぞ!」
リィザが一歩前に出た。腰の剣を抜き、逆さまにして床に突き立てる。
「……父様。私は、ケンジの言う『未来』に賭けるわ。魔法を使えず、誇りも捨てた私が、ただの筋肉でどこまでやれるか……それを見てから、判断して」
「リィザ……!」
「父様たちのやり方じゃ、双方大勢の人は死ぬわ。でも、ケンジのやり方なら、誰も死なずに済むかもしれない。……私は、私の相棒を信じる。それが私の新しい『騎士道』よ」
親子の間に、張り詰めた沈黙が流れる。
だが、主戦論に燃える騎士団の熱量は止まらなかった。
「……決裂だな。リィザ、行こう。俺たちのやり方で止めるしかない」
ケンジとリィザは、冷ややかな視線を浴びながら館を後にした。




