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馬車が国境の砦を越えると、空気の冷たさが一段と増した。
見えてきたのは、かつて「北の盾」と称えられたカレンベルク領の城塞都市だ。しかし、その誇り高き石造りの壁には無数の焦げ跡が残り、門の前には負傷した騎士たちが力なく座り込んでいた。
「……ひどい。あんなに綺麗だった街が」
リィザが絶句する。
かつて彼女を追い出した冷徹なまでに整然としていた街並みは、今や魔族の猛攻に晒され、悲鳴を上げていた。
城門を通り抜けようとすると、槍を構えた門兵が立ちはだかった。
「止まれ! 現在、カレンベルクは戒厳態勢にある。……ん? ……リィザ様!?」
「……ええ。戻ったわ」
リィザの帰還は、瞬く間に城内に伝わった。
俺たちはすぐに領主の館……リィザの実家へと通された。広間には、かつての威厳はどこへやら、疲れ切った顔の男たちが地図を囲んでいる。
「……家を追い出された者が今さら何の用だ。」
重苦しい声でそう言ったのは、リィザの父であり現当主のバルト・カレンベルクだった。その隣には、彼によく似た顔立ちの兄、エリックもいる。
「……父様。救援に来たわ。私の相棒の、ケンジと一緒に」
「救援だと? 魔法の一ひとつも使えん落ちこぼれが、何を寝ぼけたことを」
兄のエリックが鼻で笑った。
「見ろ、俺たちの現状を。魔族の連中、なぜか最近になって魔法への対策を徹底してきやがった。遠距離魔法はことごとく霧散させられ、今は剣での混戦になっている。おかげでこの負傷者の数よ。一人増えたところで、戦況は変わらん。帰れ」
リィザが言い返そうとした瞬間、俺がその前に一歩出た。
「……なるほど。今日のところは帰ろう」
俺は手に持った書類(ノアがスキャンした負傷者リスト)をパラパラと捲りながら、冷淡に言い放つ。
「どこの馬の骨とも知れん男を連れてきて、どういうつもりだ」
バルトが机を叩いて立ち上がる。
「リィザ、今すぐ出ていけ! 二度とその顔を見せるな!」
「……分かったわよ。こっちだって、あなたたちに会いに来たんじゃない。街の人たちを守りに来たのよ!」
リィザは吐き捨てるように言い、俺の腕を引いて広間を飛び出した。
喧嘩別れの形で館を追い出された俺たちは、近くの広場で途方に暮れる……かと思いきや、リィザの瞳は静かに燃えていた。
「……魔法が封じられてパニックになってる。今のままじゃ街が被害が増える一方だわ」
「ああ。だからこそ、俺たちの出番だ」
とはいえやみくもに動くわけにはいかない。まずは情報収集だ。
リィザの案内で宿を取り、街に繰り出した。




