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村を出発するまでの数日間、俺たちは宿舎で体力を戻しつつ、これからの準備を進めていた。 リィザは暇さえあれば中庭で剣を振っているが、時折、思い出したように眉間にしわを寄せて自分の手のひらを睨んでいる。
「……なあ、ケンジ。やっぱり魔法ってのは、誰にでも使えるもんじゃないんだな」
リィザがため息をつきながら、俺の横に座った。
「魔法の練習をしてたのか?」
「ああ。これでも昔、魔導師の先生に測ってもらったことがあるんだ。私の魔力量自体は人よりずっと多いらしいんだが……情けないことに、ちっとも形にできないんだよ。さっきも火を出そうと練習してみたが、煙すら出やしない」
リィザは自分の逞しい腕をさすりながら、自嘲気味に笑った。
(魔力量は多いのに、魔法として放出できない……か。ノア、どう思う?)
『マスター、リィザ様の特性について、これまでの戦闘記録を再計算しました。彼女は魔力を外に放出する「回路」が極端に細い一方で、体内に留める「容量」は非常に大きいです。』
(外に出せないなら、宝の持ち腐れだな)
『いえ、逆の発想を提案します。魔力を外へ放出して現象を起こすのが「魔法」ですが、その莫大な魔力を体内で循環させ、筋肉や骨格の強度を一時的に引き上げる「肉体強化」であれば、彼女の適性に合致する可能性があります。』
(なるほど。放出するんじゃなくて、中身をブーストさせるわけか)
ノアの提案は、現場で使いにくいシステムを無理に使うより、既存の高性能なハードウェアを最大限に活かすアップグレード案に似ていた。
「リィザ、魔法を外に出そうとするのは一旦やめてみないか?」
「……? やっぱり無駄だから魔法を諦めろってことか?」
「いや、逆だ。その有り余ってる魔力を、全部自分の体の中に押し込むイメージを持つんだ。指先から出すんじゃなくて、腕や足の筋肉に、魔力の膜を張り巡らせる感覚で」
「体の中に……? そんなこと考えたこともなかったな。……よし、やってみる」
『マスター、彼女が力を込める瞬間に合わせて「呼吸を止めるな」と助言を。』
「リィザ、呼吸を止めるな。魔力を血液に乗せて全身に回すつもりで、深く吸って、吐き出すんだ」
「ふ、ふぅ……。ぐっ……おおおお!」
その瞬間、リィザの全身から、陽炎のような淡い輝きが立ち上った。 彼女が手近な木に向かって無造作に拳を突き出すと、ただの正拳突きとは思えないほどの衝撃音が響き、太い幹がミシミシと悲鳴を上げた。
「なっ……!? 今のは……」
リィザが驚いたように自分の拳を見つめる。
「それがリィザに合った魔力の使い方だ。『魔法』じゃなくて『身体強化』。お前の元々の怪力を、魔力で何倍にも跳ね上げるんだよ」
「身体強化か……。これなら、剣を振る感覚で使える! ケンジ、お前……何者なんだ」
俺自身に強大な力はない。だが、ノアのおかげで、リィザをさらに強くできるかもしれない。
『マスター、リィザ様の戦力向上により、生存確率が大幅に上昇しました。』
数日後、俺たちは村を出た。




