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赤嶺美月の幼女任侠伝  作者: スパイク


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ツインテール姐さん成長物語 ――元気が余りすぎた結果、ヒロインになりました 第7話 まだ名乗ってないのに主役――完成しすぎ幼稚園ヒロイン

赤嶺美月は、この頃まだ何者でもなかった。

任侠映画も知らない。

怪しげな協和語も使わない。

お天気お姉さんの口調も、まだ封印されている。


それでも――

完成していた。


何が、とは言わない。

ただ、見ている大人たちが口をそろえて言うのだ。


「……この子、

普通ちゃうな」


幼稚園の朝。


「はーい、

お外行くよー」


先生が声をかけるより早く、

低めツインテールが動いた。


「ほな、

ならぶでー!」


誰に頼まれたわけでもない。

だが、自然と列ができる。


先生

「……ありがとう、美月ちゃん」


美月

「ええで!」


軽い。

軽すぎる。


前に立つ。

場を回す。

それが“役割”だという自覚すらない。


そこに、必ずいるのが蓮だった。


「れん、

ちゃんと靴はいた?」


「う、うん……」


「ほな、

ウチの横な」


命令ではない。

だが、配置は確定である。


砂場。


小さい子が泣いていた。

おもちゃを取られたらしい。


先生が駆け寄る前に、

美月がしゃがむ。


「どないしたん?」


「……とられた」


「そっか」


美月は、立ち上がると加害側(本人はその自覚なし)に言った。


「それな、

あとで使うやつやろ?」


「……うん」


「今は、

この子が先な」


理由はシンプル。

論点が明確。


相手は黙っておもちゃを返す。


先生

(……今の、

完全に仲裁やん)


蓮は横で小声。


「み、美月……

こわ……」


美月

「ん?」


「……やさしいな」


「そらそうや」


即答。


運動会の練習。


「はい、

ここから走ってー」


先生の説明が終わる前に、

美月はもうスタートラインに立っている。


「ウチ、

先いくな!」


そして一番楽しそうに走る。


全力。

笑顔。

声も出る。


「がんばれー!」


応援まで始める。


真人が見学に来ていた。


「……なあ春菜」


「何?」


「あの子、

自分走りながら、

人も応援しとるで」


春菜は冷静に言う。


「器用やな」


「器用で済む話か?」


昼休み。


「美月ちゃん、

ちょっと来て」


先生が声をかける。


「はい!」


呼ばれた理由は、

「みんなの前に出すぎ」。


だが、叱るつもりが、

なぜか相談になる。


「どうしたら、

みんなが楽しくなると思う?」


美月は少し考えたあと、

こう言った。


「順番、

ちゃんとしたらええねん」


先生

「……それだけ?」


「うん」


深い。

いや、単純だが強い。


帰り道。


近所のおばちゃんが言う。


「あの子なぁ、

ちっちゃいのに、

よう見とるわ」


「せやねん。

目、よう届くねん」


「しかも、

本人が一番楽しそうやろ?」


大人たちはうなずき合う。


「……只者ちゃうな」


夜。


美月はしろくま先生を抱えて、

床に座っていた。


「せんせー、

きょうな、

ウチな、

いっぱい楽しかった」


しろくま先生は何も言わない。

だが、最前列で聞いている。


真人はその姿を見て、

小さく笑った。


「……なあ春菜」


「何?」


「この子、

アイドルとか、戦隊ヒロインとかに

なりそうちゃう?」


春菜は一瞬考え、

あっさり言った。


「もう、

なってるんちゃう?」


まだ名乗っていない。

まだ変身もしない。

まだ決めポーズもない。


だが――


前に立つ。

場を回す。

弱い子を気にかける。

自分が一番楽しそう。


ヒロインの条件は、

すでに全部そろっていた。


こうして、

ツインテール姐さんは、

知らぬ間に完成形へと近づいていた。


次に覚えるのは――

“筋を通す言葉”。


だがそれは、

もう少し先の話である。

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