ツインテール姐さん成長物語 ――元気が余りすぎた結果、ヒロインになりました 第6話 結んだら最後――低めツインテール、街を制圧する
赤嶺美月のトレードマーク――
それは、低めのツインテールである。
それがいつから始まったのか。
本人は覚えていない。
だが、家族全員が「この日や」と断言できる瞬間があった。
未就学児のある朝。
リビングは、いつも通り騒がしかった。
「みーちゃん!
朝ごはん食べてから走り!」
「いま、いそがしいねん!」
忙しい理由は不明だが、美月はとにかく走っていた。
廊下を往復し、ソファを回り、階段の手前でターン。
止まらない。止まる気もない。
春菜はため息をつき、ゴムを手に取った。
「……もう、
邪魔やろ。髪」
「うん!」
即答である。
春菜は、動きやすさ最優先で、
左右低めにきゅっと結んだ。
鏡の前に立つ美月。
「……」
数秒の沈黙のあと、
満面の笑み。
「これ、
ええやん!!」
その場でダッシュ。
「ほら!
ぜんぜんじゃまならへん!」
春菜
「……気に入ったみたいやな」
真人は、その姿を見てぽつりと言った。
「……なんか、
もう完成してへん?」
誰が?
何が?
それはまだ分からない。
幼稚園に通い始めた美月は、
初日から自然に前に立っていた。
先生が言う。
「はーい、並びましょう」
次の瞬間。
「ならぶでー!
つぎ、こっち!」
――美月である。
先生
「……えっと?」
誰も指示していないのに、
誰も逆らわない。
低めツインテールが揺れるたび、
場がまとまっていく。
そこに、
必ず一人ついてくる子がいた。
蓮。
近所に住む、
気弱で優男で、
声が小さく、
走るのも遅い。
「れん、
ちゃんと来てる?」
「う、うん……」
「ほな、
ウチの横な」
命令ではない。
だが、断る選択肢はない。
砂場では――
「れん、
そこ掘って」
「う、うん……」
滑り台では――
「れん、
先見といて」
「う、うん……」
蓮は疑問を持たない。
持てない。
なぜなら、美月は小柄で、
顔立ちは可愛らしく、
声も高い。
だが――
迷いがない。
先生たちは内心ざわついていた。
(……あの子、
完全に仕切ってる……)
ある日、年上の園児が割り込んできた。
「先、行くで」
その瞬間、
低めツインテールが止まった。
「……あかんで」
声は小さい。
だが、はっきりしている。
「順番、守ろ」
年上の子が一瞬たじろぐ。
「……なんやねん」
「守らへんかったら、
ウチ、先生呼ぶ」
理屈が強い。
年上の子は、
何も言わず最後尾へ。
蓮は震えながら囁く。
「み、美月……
すごいな……」
美月は首をかしげる。
「そう?」
本気で分かっていない。
帰宅後。
春菜が幼稚園の様子を聞く。
「今日、どうやった?」
「れんがな、
ちゃんとしてた」
「……上からやな」
真人は新聞を畳みながら言う。
「なあ、
あだ名ついてへんか?」
春菜
「……ついてると思う」
「何て?」
「姐さん」
真人はむせた。
「はやない!?」
春菜は冷静だった。
「低めツインテールやし、
仕切るし、
そらそうなるわ」
その夜。
美月はしろくま先生を抱いて、
満足そうに眠っていた。
低めツインテールは、
寝相が悪くても崩れない。
真人はその姿を見て、
静かに確信した。
(……この子、
前に立つ運命やな)
まだ、
戦隊ヒロインではない。
まだ、
必殺技もない。
だが――
隊列をまとめる才能だけは、
すでに完成していた。
こうして、
低めツインテールは誕生し、
ツインテール姐さんという呼び名が、
街に、幼稚園に、
静かに定着していった。




