ツインテール姐さん成長物語 ――元気が余りすぎた結果、ヒロインになりました 第4話 夢は天井知らず、ローンは現実――ようこそ春菜ワールドへ
設計事務所の打ち合わせ室というのは、どうしてあんなに静かで、どうしてあんなに現実が数字で殴ってくる場所なのだろう。
赤嶺真人は、分厚い資料の束を前に、背筋を正して座っていた。
その横で――
春菜は、めちゃくちゃ楽しそうだった。
「まずな、キッチンは広めがええねん」
「……うん」
「対面式で、アイランド型にしてな」
「……うん」
「ほんで、吹き抜け欲しいやろ?」
「……え?」
「中庭もあると気持ちええやん?」
真人は、頭の中で必死に電卓を叩く。
(キッチン、吹き抜け、中庭……
これ、戸建てちゃうな。
ちょっとした展示場や)
設計士が目を輝かせて頷く。
「いいですねぇ!
開放感があります!」
春菜はさらに畳みかける。
「廊下もな、
ちょっと広めにしてほしいんです」
「理由は……?」
設計士が尋ねると、春菜は即答した。
「この子、走るんで」
真人
「すいません、
それは止める方向で……」
「止まらへんから」
即却下。
打ち合わせ室の隅で、美月は床に置かれたサンプルの板を踏み台にしてジャンプしていた。
「ほら、今も走っとるやろ?」
設計士
「……なるほど」
何が「なるほど」なのか分からないが、
妙に納得されてしまった。
壁紙の話になると、
春菜のテンションはさらに上がった。
「リビングは明るめで、
でも落ち着いた感じも欲しいなぁ」
「寝室はちょっと大人っぽく」
「子ども部屋は、
あとで仕切れるようにして」
真人は、口を開きかけては閉じる。
(……今、
『予算』って単語、
誰か言ったか?)
照明プラン。
「間接照明も入れたいですね」
設計士が言うと、春菜は食いついた。
「それええ!
夜、雰囲気出るやん!」
真人
「……電気代は?」
春菜
「ロマンやん」
ロマンは強い。
打ち合わせが終わる頃、
真人はすでに魂が半分抜けていた。
帰り道。
車の中で、真人は恐る恐る切り出す。
「……なあ春菜」
「何?」
「さっきの話、
だいぶ盛っとらん?」
春菜はハンドルを握りながら、
楽しそうに言う。
「だって一生住む家やで?」
「せやけどな……
ローンも一生ちゃう?」
「気のせいや」
気のせいで済ませてはいけない。
数週間後。
住宅ローンの審査結果が届いた。
真人は封筒を持つ手が震えている。
「……通った」
春菜
「ほらな」
「いや、
『ほらな』ちゃうねん」
その夜、
真人は天井を見つめながら考えた。
(俺、
何歳まで働くんやろ……)
横では美月が、
「はしれる家!」
と叫びながら布団の上で跳ねている。
春菜はその様子を見て、
満足そうに言った。
「ええ家になるで」
真人は苦笑いする。
「せやな……
胃は痛いけど」
「大丈夫」
春菜はあっさり言う。
「あなた、宴会部長やった人やん。
これくらい、何とかなるって」
根拠はないが、
妙に説得力があった。
こうして――
赤嶺家のマイホーム建設は、
正式にスタートした。
夢は盛り盛り。
現実はずっしり。
だが、
笑い声と足音が絶えない家になることだけは、
すでに決まっていた。




