ツインテール姐さん成長物語 ――元気が余りすぎた結果、ヒロインになりました 第1話 産声デカすぎ問題――月夜に泣いた未来の主役
その夜、大阪の空はやけに澄んでいた。
雲ひとつない夜空に、丸い月がぽっかりと浮かんでいる。
「……今日は、月きれいやな」
病院へ向かう車の中で、春菜は、そう呟いた。
隣の運転席では、真人がハンドルを握りしめ、必要以上に前のめりになっている。
「そ、そうやな!
めっちゃ丸いな!
縁起ええやつやな!」
声が裏返っている。
本人は気づいていない。
分娩室の前。
真人は、落ち着きがなかった。
立ち上がっては座り、
座っては立ち上がり、
意味もなく時計を見る。
「なあ、俺、今、何したらええ?」
「……何もせんでええです」
助産師さんの声は、穏やかだが強かった。
やがて、奥の部屋から声が聞こえる。
短く、しかし力強い声。
次の瞬間――
「オギャアアアアアアア!!!」
それは、夜を切り裂くような産声だった。
真人は、その音を聞いた瞬間、
まるで雷に打たれたかのように固まった。
「……デカない?」
助産師さんがにこやかに出てくる。
「元気いっぱいですよ。
可愛い女の子です」
その一言で、
赤嶺真人の感情は限界を突破した。
「うわあああああああああ!!」
泣いた。
声を上げて泣いた。
肩を震わせ、鼻をすすり、完全に制御不能だった。
「俺……
俺……
女の子の父親になったぁぁ……」
助産師さんがそっとティッシュを差し出す。
「……あの、
赤ちゃんより泣いてますよ?」
「すいません!!
感情の制御がきかへんタイプで!!」
春菜はベッドの上で、汗を拭きながら苦笑いした。
「……この人、
泣くと思ってた」
しばらくして、赤ちゃんが連れてこられた。
小さな体。
きゅっと握られた手。
だが――
顔は、妙に堂々としていた。
「……なあ」
真人は声を潜める。
「この子、
もう“ここが舞台や”って顔してへん?」
春菜は笑った。
「確かに。
なんか主張強そう」
赤ちゃんは、再び泣いた。
「オギャアアア!!」
その声は、
「私はここに来た!」
と宣言しているかのようだった。
助産師さんが言う。
「ほんとに元気な子ですね。
力も強いですよ」
真人は思わずつぶやく。
「……俺より強そう」
春菜
「それは確実です」
窓の外を見ると、
月が相変わらず明るく輝いている。
「今日、月がきれいやな」
春菜が言う。
真人は即答した。
「ほな、
名前は美月やな」
一瞬の沈黙。
春菜は小さくうなずいた。
「……うん。
ええ名前」
こうして、
赤嶺美月は誕生した。
まだツインテールでもない。
まだ走り回りもしない。
まだ誰かをまとめることも知らない。
だが、その産声だけは、
すでに完成していた。
元気いっぱいで、
遠慮がなく、
存在を隠す気がまるでない。
真人は、赤ちゃんを見つめながら、
泣き笑いの顔で言った。
「……この子、
絶対、普通ちゃうな」
春菜は小さく笑う。
「今さら何言ってるんですか。
あなたの子ですよ」
月夜の病室。
静かな廊下。
その真ん中で、
未来のツインテール姐さんは、
もう一度、大きな声で泣いた。
まるで――
「これから、よろしく!」
とでも言うように。
こうして、
元気が余りすぎた結果、ヒロインになる物語は、
産声デカめで、堂々と始まった。




