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赤嶺美月の幼女任侠伝  作者: スパイク


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ツインテール姐さん誕生前夜 ――赤嶺家、すべてはここから始まった 第6話 月が笑った夜――松原市にてツインテール姐さん爆誕

大阪府松原市。

大阪市と堺市に挟まれ、ほどよく住宅地で、ほどよく下町。

自転車が主役で、夕方になると商店街から揚げ物の匂いが漂い、

「まあまあ落ち着く街やな」と言われることに全力を注いでいる市である。


赤嶺真人と春菜の新婚生活は、

この松原市で、開始三日目にして完全決着がついていた。


――かかあ天下である。


「真人、洗濯干す向きちゃう」

「真人、ゴミの日ちゃう」

「真人、今それ言うタイミングちゃう」


真人は反論しない。

というか、できない。


「……はい」


返事だけは日本一良い夫だった。


本人は内心こう思っている。


(いや、ええねん。

俺、まとめ役よりまとめられる側の方が向いとる)


春菜は強い。

だが理不尽ではない。


真人がボケると拾い、

暴走すると止め、

落ち込むと励ます。


松原市の2LDKは、

自然と“笑いの起点”になっていた。


そんなある日。

春菜が静かに言った。


「……できたみたいです」


真人

「何が?」


春菜

「赤ちゃん」


真人は三秒沈黙し、

五秒固まり、

十秒後に叫んだ。


「えええええええええ!!!」


近所迷惑である。


それからの日々は、

少しずつ、でも確実に変わっていった。


春菜のお腹はふくらみ、

真人はなぜか張り切り始める。


「胎教や!

胎教が大事や!」


そう言って流したのは、

なぜかお笑い番組の録画だった。


「笑いは免疫力上がるらしいで!」


「……あなたが見たいだけでしょ」


夜。

二人は並んでお腹を撫でる。


「なあ、

どんな子になるやろ」


「あなたに似たら……

元気だけは保証しますね」


「それ、

褒めてる?」


「半分は」


月日は流れ、

ある晩。


空気が澄み、

雲ひとつない夜だった。


月が、やけに綺麗だった。


「……来そうやな」


病院へ向かう道中、

真人はなぜか焦りまくる。


「バッグ忘れた!」

「いや持っとる!」

「靴逆や!」

「それ左右同じです!」


分娩室の前。

真人は落ち着きなく歩き回る。


「なあ、

俺、何したらええ?」


「……静かにしてください」


そして――

産声が上がった。


元気な、

やたら力強い、

まるで「ここが舞台や!」と言わんばかりの声。


春菜は汗だくで笑った。


「……すごい声」


真人は泣いた。


「うちの子、

最初から主張強い……」


看護師が言う。


「元気な女の子ですよ」


窓の外。

月は、まるで拍手しているかのように輝いていた。


名前を聞かれ、

春菜が言う。


「今日、

月が綺麗で……」


真人が続ける。


「ほな、

美月やな」


こうして――

赤嶺美月、誕生。


後に、

ツインテール姐さんと呼ばれ、

場を仕切り、

前に立ち、

笑いと正義を同時に振り回す存在になる少女。


だがこの夜、

彼女はただ、

松原市の小さな病室で、

大きな声で泣いていただけだった。


真人はその小さな手を見て、

ぽつりと言う。


「……俺より強そうやな」


春菜は即答した。


「でしょうね」


こうして、

ツインテール姐さん誕生前夜は幕を閉じる。


次から始まるのは――

掴みどころがなく、

真似が得意で、

筋を通したがる、

あの伝説の成長編である。


松原市の夜は、

今日も静かだ。


――嵐の前の、

静けさである。

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