ツインテール姐さん誕生前夜 ――赤嶺家、すべてはここから始まった 第5話 宴会部長、結婚式でも通常運転――松原市、新婚はじめました
結婚式当日。
会場は大阪市内の、ごく普通だが雰囲気だけはやたら良い式場だった。
新郎・赤嶺真人。
新婦・滝川春菜。
この並びを見て、参列者の三割はこう思った。
(……ほんまに結婚するんや)
残りの七割は、こう思った。
(……なんでや)
だが、式が始まる前から、その疑問は別の感情に上書きされる。
「えー、皆さま本日は!」
開幕早々、マイクを握っていたのは――
当然のように新郎本人だった。
司会者が止める間もなく、真人は言い切った。
「本日の主役は、
新婦です!!!」
会場が一瞬静まり、
次の瞬間、どっと笑いが起きる。
春菜は、ベールの下で小さくため息をついた。
(……やると思った)
誓いの言葉。
真人は緊張のあまり、
「病める時も健やかなる時も」を
「飲める時も健やかなる時も」
と言い間違え、
親族席から「それはそれで合っとる」という声が飛ぶ。
指輪交換では、
サイズを間違えて持ってきてしまい、
春菜の指で止まる。
「……ちょっとキツいです」
「愛で広がるやつや!」
司会者
「広がりません」
披露宴に入ると、
真人は完全に宴会部長モードに入った。
乾杯の音頭を頼まれていないのに立ち上がり、
友人代表スピーチに割り込み、
余興で予定外の一本締めを二回入れる。
だが、不思議と場は荒れなかった。
「赤嶺らしいな」
「変わらんで安心したわ」
春菜は、それを一歩引いた場所から見ていた。
(……ほんま、
この人は人を笑わせる天才やな)
最後の手紙朗読。
春菜が静かに読み上げる。
感謝。
これまでのこと。
これからのこと。
会場がしんと静まり、
感動ムードが最高潮に達した、その瞬間。
真人が――
号泣した。
号泣しすぎて、
何を言っているか分からない。
「うぉえええ……
はるなぁぁ……
ありがどぉぉ……」
ハンカチが足りず、
ナプキンで顔を拭く新郎。
司会者
「……では、新郎からも一言」
真人は涙と鼻水を拭いながら言った。
「俺……
一生、楽しませます」
会場は拍手と笑いに包まれた。
こうして、
祝福とツッコミに満ちた結婚式は幕を閉じた。
――数日後。
二人は大阪府松原市の新居で、新婚生活を始めた。
間取りは2LDK。
家具は最低限。
テレビはちょっと小さい。
だが、家の中はやたら賑やかだった。
「見て見て!
このフライパン、
めっちゃ軽いで!」
「それ、
昨日も聞きました」
真人は張り切って自炊を始め、
初日に鍋を焦がし、
二日目に味噌汁を甘くし、
三日目にキッチンを水浸しにした。
春菜は笑って言う。
「……おままごとみたいですね」
「せやろ?
楽しいやろ?」
夜。
二人は床に座り、
安いアイスを半分こする。
「……なあ」
「はい」
「結婚して、
どうです?」
春菜は少し考え、
正直に答えた。
「退屈せえへんですね」
真人は満足そうにうなずく。
「それが目標やった」
この頃の二人は、
まだ気づいていなかった。
この“おままごとみたいな生活”が、
やがて――
とんでもない存在を生み出すことを。
笑いが絶えず、
空気が明るく、
誰かが自然と前に立つ家。
松原市の小さな部屋で、
ツインテール姐さん誕生の土壌は、
すでに完成していた。




