ツインテール姐さん誕生前夜 ――赤嶺家、すべてはここから始まった 第4話 女優来訪注意報――赤嶺家、全力でカメラを探す
赤嶺真人は、その日、人生で一番そわそわしていた。
「……ほんまに、行くんやな」
隣を歩く滝川春菜は、涼しい顔でうなずく。
「約束しましたやん。
ご両親に会うって」
「そやけどな……
うちの実家、
ちょっと変やで?」
「“ちょっと”で済むなら安心です」
そう言って笑う春菜は、
どう見ても“普通の会社員の彼女”には見えない。
女優。
もしくはドラマの主人公。
少なくとも、
町工場の家に来る人間のオーラではない。
東大阪の下町。
赤嶺製作所の看板が見えてきた。
真人は深呼吸する。
「……ええか、
うちの親父とおかん、
ビックリすると思うけど」
「はい」
「多分、
話聞かへん」
「それは困りますね」
玄関の戸を開けた瞬間、
赤嶺家の空気が凍りついた。
父・清一が、
口を半開きにして立ち尽くす。
母・花は、
手に持っていた買い物袋を落とした。
「…………」
沈黙、三秒。
最初に声を出したのは、花だった。
「……真人」
「はい」
「この人……
誰?」
「俺の……
彼女」
その瞬間、
清一と花の目が光った。
「……なるほど」
「……そういうことやな」
次の瞬間、
二人は家中を見回し始めた。
「カメラはどこや!?」
「天井か!?
冷蔵庫の上か!?」
春菜
「???」
真人
「ちょ、ちょっと待って!
何してんの!?」
清一
「ドッキリに決まっとるやろ!!」
花
「こんな女優さんみたいな人が、
あんたの嫁になるわけあらへん!!」
清一は押し入れを開け、
花はカーテンの裏をめくる。
「ほら!
スタッフ出てきい!!」
「もう十分驚いたわ!!」
春菜は、
あまりの光景に耐えきれず――
「……ふふっ」
吹き出した。
それが、
赤嶺家の空気を一変させた。
「あ……
笑った」
花がぽつりと言う。
清一も動きを止める。
「……真人」
「はい」
「この人……
ほんまもんやな」
「せやから言うたやん!!」
改めて座敷に通され、
春菜は丁寧に頭を下げた。
「滝川春菜と申します。
真人さんと、お付き合いさせていただいてます」
清一は腕を組み、
じっと春菜を見る。
「……あのな」
「はい」
「ほんまにええんか?」
「何がですか?」
「こんな……
アホで」
「親父!!」
「見た目も……
まあ……」
「親父!!!」
清一は続ける。
「うちの息子で」
春菜は少し考え、
にこっと笑った。
「……面白い方ですよね」
清一
「……ほう」
「退屈しないと思います」
その言葉を聞いた瞬間、
花が手を叩いた。
「決まりや!!」
「おかん!?」
「この子、
分かっとる!!」
花は春菜の手を取り、
一気に距離を詰める。
「なあなあ、
真人のどこが良かったん?」
真人
「今それ聞く!?」
春菜は笑いながら答える。
「正直で、
楽しそうで……
あと、
場を明るくするところです」
清一は鼻を鳴らす。
「……まあ、
それだけは昔からやな」
夕飯は急遽、
大宴会になった。
清一は酒を出し、
花は料理を増やし、
真人はいつも通り空回る。
「いや〜、
人生って分からんもんやなぁ!」
「ほんまやなぁ!」
春菜はその様子を見ながら、
心の中で思った。
(……この家族、
ずっと笑ってる)
ドッキリだと疑われ、
本気でカメラを探され、
それでも最後は全力で迎え入れる。
(ここなら……
楽しくやっていけそう)
帰り際。
春菜はそっと真人に言った。
「……ええご両親ですね」
真人は照れながら笑う。
「せやろ。
ちょっと変やけど」
「“ちょっと”じゃないです」
二人は並んで夜道を歩く。
赤嶺家は、
今日もにぎやかだった。
そしてこの日、
赤嶺家は知らず知らずのうちに、
とんでもない才能の母校になる準備を、
着々と進めていた。




