ツインテール姐さん誕生前夜 ――赤嶺家、すべてはここから始まった 第1話 ミレニアム大阪、宴会部長は世界を救わない
200X年前半。
世間はやたらと浮き足立っていた。
「2000年になった瞬間、コンピューター止まるらしいで」
「銀行のATM全部アウトちゃうか」
「エレベーター閉じ込められたらどうする?」
テレビも雑誌も不安を煽り、街は根拠のない緊張感に包まれていた。
そんな中、大阪府内に本社を構える某・大証一部上場企業でも、社員たちはそれなりにザワついていた。
だが――
この会社には、一切ザワつかない男がいた。
赤嶺真人、二十二歳。
同期入社の中で、誰よりも早く“あだ名”を持った男である。
その名も――
宴会部長。
理由は単純だった。
入社式後の懇親会で、誰にも頼まれていないのにマイクを握り、
「今日はな!人生で一回しかない日や!」
と意味不明な開会宣言をぶちかましたからだ。
見た目は中の下。
背は平均、顔は特徴がない。
スーツを着ると「どこにでもいる新入社員」の完成形。
だがノリと勢いだけは、異様に良かった。
「はい新人一発芸いこか!」
「次、部長の若い頃トークお願いします!」
「じゃあ最後は一本締めで!」
結果、懇親会は妙に盛り上がり、
翌日から真人はこう呼ばれるようになった。
「赤嶺、宴会部長な」
本人は大喜びだった。
「ええやん!肩書きあるって大事やで!」
――この時点で、出世コースから外れていることに、本人だけが気づいていなかった。
その年の同期は三十人。
その中に、誰もが一目置く存在がいた。
滝川春菜、二十二歳。
受付に立てば来客が二度見し、
エレベーターに乗れば空気が変わる。
「女優さん?」
「モデルちゃうん?」
そんな声が、普通に聞こえてくるレベルの美人だった。
本人は至って普通。
仕事も真面目で、無駄に目立つことはしない。
だからこそ――
社内では、誰もが遠巻きに眺める“高嶺の花”になっていた。
そんな二人が、同じ会社、同じ年、同じタイミングで入社した。
この時点で、物語の歯車は静かに回り始めていたのだが、
誰一人として、そのことに気づいていなかった。
もちろん――
本人たちですら。
数週間後。
新人歓迎会が開かれた。
幹事は、当然のように赤嶺真人。
「俺に任せとき!
絶対盛り上げたる!」
結果――
店の予約時間を間違え、
開始が三十分遅れ、
乾杯の音頭で噛み、
二次会の店は満席。
だが、なぜか場は和んでいた。
「赤嶺、アホやけど憎めん」
「失敗しても楽しそうやな」
春菜は、端の席でその様子を眺めていた。
(……なんやこの人)
騒がしいのに、嫌味がない。
空回りしているのに、誰も本気で怒らない。
終盤、酔いが回った真人が、
何を思ったか春菜の前に立った。
「滝川さん!」
一瞬、空気が凍る。
「今日、全然喋ってへんやん!
大阪来た意味ないで!」
――完全にアウトの台詞だった。
だが春菜は、吹き出した。
「……そんな理由で絡まれるの、初めてです」
真人はその笑顔を見て、内心ガッツポーズ。
(あ、笑ってくれた)
この瞬間。
宴会部長の人生で、
最も重要なフラグが立った。
ミレニアムの不安も、
2000年問題も、
この二人にとっては、まだどうでもよかった。
すべては、
この“宴会部長と高嶺の花”の出会いから始まる。
――そしてまだ誰も知らない。
この二人の娘が、
やがてツインテール姐さんと呼ばれ、戦隊ヒロインとして
大阪と世界を騒がせる存在になることを。




