ツインテール姐さん、正体不明のまま主役席へ
東大阪の公園は、今日も子どもたちの声でにぎやかだった。
ただし、その中心に赤嶺美月(五歳)がいる場合に限り、にぎやかさの“質”が変わる。
朝。
美月は滑り台の前に立ち、両手をそろえてにこやかに宣言した。
「は〜い♪
本日の公園は、すべりだい日和で〜す♪
順番を守ると、心も晴れますよ〜♡」
蓮は一瞬、目を疑った。
「……今日、平和系や……?」
安心しかけた、その十分後。
ブランコの列に割り込もうとした年上の子が現れた瞬間、美月の背筋がピンと伸びる。
「……兄弟」
声が低い。
「筋を通せ。
秩序は、自由を守るためにある」
蓮
「戻った!!」
さらに間髪入れず、美月は胸に手を当て、風に向かって言い放つ。
「案ずるな。
この場は、私が預かる」
蓮
「??????
(え、貴族!?軍人!?今度は誰!?)」
男装の麗人の口調だった。
昨日は任侠、先週は協和語、今日は革命の騎士。
年上の子はなぜか深くうなずき、列の最後に戻る。
美月は一拍置き、急に明るく続けた。
「ソレデハ〜、ヨクミル〜ネ〜?
アラフシギ〜!順番守ルト、ミンナ楽シイ〜ネ〜!」
蓮
「?????????????」
公園は爆笑に包まれた。
正義も、威厳も、笑いも、すべてが秒単位で切り替わる。
少し離れたベンチで、その様子を祖父・清一が眺めていた。
祖母の花が腕を組む。
「……この子、ほんま掴みどころあらへんわ」
清一は楽しそうに笑う。
「せやけどな。
場に必要な役、即座に選んどる。
ああいうのが“前に立つ人間”や」
花
「前に立つ?」
「そう。
誰かが守らなあかん時は剣になり、
空気が重い時は笑いになる」
その頃、美月はしろくま先生を抱え、即席の舞台を始めていた。
「皆様……
今宵の主役は、私だ」
拍手はない。
だが、美月は深々と一礼する。
「感謝する。
観客が一人でも、舞台は成立する」
蓮
「……相手ぬいぐるみやで……?」
夕方、帰り道。
美月は急に立ち止まり、空を見上げた。
「蓮」
「な、なに……?」
「私は、まだ何者でもない」
蓮
「……知ってる」
「だがな」
美月は男装の麗人の口調で、静かに続けた。
「必要とあらば、
私は何者にでもなる」
蓮
「(それが一番怖い……)」
夜。
布団を腰に巻いた美月は、リビングで一人フィナーレを迎えていた。
「栄光の夜に、敬礼を」
三段しかない段差を、堂々と大階段のつもりで降りる。
父と母は顔を見合わせ、ため息をついた。
「……また始まったな」
「でも、楽しそうやし、ええか」
布団に入る前、美月は母に聞いた。
「なあ。
ウチ、将来何になるんやろ」
母は笑った。
「知らん。
でも、前に立つんは好きやろ?」
美月は満足そうにうなずく。
「せやな。
ほな、まだ決めん」
――それから時は流れ。
大学生になった美月は、
チアのステージでも、イベントでも、
「どこに立っても主役みたい」と言われる存在になる。
さらに後。
戦隊ヒロインとして、
ステージの中央に立つ美月は、あの公園を思い出す。
空気を読む。
役を選ぶ。
必要な顔で、前に出る。
掴みどころがない?
違う。
最初から、掴ませる気がないだけ。
ツインテール姐さんは、
男装の麗人の誇りも、任侠の筋も、笑いの間も胸に抱き、
今日も堂々と主役席に立っている。
――それが、
戦隊ヒロイン・赤嶺美月だった。




