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赤嶺美月の幼女任侠伝  作者: スパイク


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15/28

ツインテール姐さん、正体不明のまま主役席へ

東大阪の公園は、今日も子どもたちの声でにぎやかだった。

ただし、その中心に赤嶺美月(五歳)がいる場合に限り、にぎやかさの“質”が変わる。


朝。

美月は滑り台の前に立ち、両手をそろえてにこやかに宣言した。


「は〜い♪

本日の公園は、すべりだい日和で〜す♪

順番を守ると、心も晴れますよ〜♡」


蓮は一瞬、目を疑った。

「……今日、平和系や……?」


安心しかけた、その十分後。

ブランコの列に割り込もうとした年上の子が現れた瞬間、美月の背筋がピンと伸びる。


「……兄弟」


声が低い。


「筋を通せ。

秩序は、自由を守るためにある」


「戻った!!」


さらに間髪入れず、美月は胸に手を当て、風に向かって言い放つ。


「案ずるな。

この場は、私が預かる」


「??????

(え、貴族!?軍人!?今度は誰!?)」


男装の麗人の口調だった。

昨日は任侠、先週は協和語、今日は革命の騎士。

年上の子はなぜか深くうなずき、列の最後に戻る。


美月は一拍置き、急に明るく続けた。


「ソレデハ〜、ヨクミル〜ネ〜?

アラフシギ〜!順番守ルト、ミンナ楽シイ〜ネ〜!」


「?????????????」


公園は爆笑に包まれた。

正義も、威厳も、笑いも、すべてが秒単位で切り替わる。


少し離れたベンチで、その様子を祖父・清一が眺めていた。

祖母の花が腕を組む。


「……この子、ほんま掴みどころあらへんわ」


清一は楽しそうに笑う。


「せやけどな。

場に必要な役、即座に選んどる。

ああいうのが“前に立つ人間”や」


「前に立つ?」


「そう。

誰かが守らなあかん時は剣になり、

空気が重い時は笑いになる」


その頃、美月はしろくま先生を抱え、即席の舞台を始めていた。


「皆様……

今宵の主役は、私だ」


拍手はない。

だが、美月は深々と一礼する。


「感謝する。

観客が一人でも、舞台は成立する」


「……相手ぬいぐるみやで……?」


夕方、帰り道。

美月は急に立ち止まり、空を見上げた。


「蓮」


「な、なに……?」


「私は、まだ何者でもない」


「……知ってる」


「だがな」


美月は男装の麗人の口調で、静かに続けた。


「必要とあらば、

私は何者にでもなる」


「(それが一番怖い……)」


夜。

布団を腰に巻いた美月は、リビングで一人フィナーレを迎えていた。


「栄光の夜に、敬礼を」


三段しかない段差を、堂々と大階段のつもりで降りる。

父と母は顔を見合わせ、ため息をついた。


「……また始まったな」

「でも、楽しそうやし、ええか」


布団に入る前、美月は母に聞いた。


「なあ。

ウチ、将来何になるんやろ」


母は笑った。


「知らん。

でも、前に立つんは好きやろ?」


美月は満足そうにうなずく。


「せやな。

ほな、まだ決めん」


――それから時は流れ。


大学生になった美月は、

チアのステージでも、イベントでも、

「どこに立っても主役みたい」と言われる存在になる。


さらに後。

戦隊ヒロインとして、

ステージの中央に立つ美月は、あの公園を思い出す。


空気を読む。

役を選ぶ。

必要な顔で、前に出る。


掴みどころがない?

違う。


最初から、掴ませる気がないだけ。


ツインテール姐さんは、

男装の麗人の誇りも、任侠の筋も、笑いの間も胸に抱き、

今日も堂々と主役席に立っている。


――それが、

戦隊ヒロイン・赤嶺美月だった。

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