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赤嶺美月の幼女任侠伝  作者: スパイク


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13/28

ツインテール姐さん、薔薇より気高く剣より早い

赤嶺美月、五歳。

その日、彼女はいつもより少しだけおすましして阪急電車に乗っていた。母・春菜と一緒に向かう先は、街の人々が「夢の殿堂」と呼ぶ大劇場。赤い絨毯、天井の高いロビー、きらきらした人の波――そのすべてが、すでに非日常だった。


客席が暗くなり、幕が上がる。

豪奢な宮殿、翻る軍服、咲き誇る薔薇。

王妃と革命、誇りと剣。

そして現れた、凛とした立ち姿の“男装の麗人”。


その瞬間、美月の世界が止まった。


(……あの人……カッコええ……)


歌も台詞も、ほとんど理解できていない。

だが、背筋の伸びた立ち姿、迷いのない視線、民を守るために剣を取る覚悟。

それだけで十分だった。

拍手が鳴りやまず、フィナーレで階段を降りてくる姿を見たとき、美月は息を止めていた。


終演後、春菜は娘の異変に気づく。

いつもなら感想をまくしたてるのに、美月は黙ったまま、背筋を伸ばして歩いている。


阪急電車に揺られながら、突然、美月が口を開いた。


「母上。

この国は、私が守ろう」


春菜は固まった。


「……え?」


声が低い。

言葉遣いが妙に気高い。

昨日まで任侠口調や協和語を使っていた娘とは思えない。


翌日、公園。

蓮が恐る恐る近づく。


「み、美月ちゃん……今日は……?」


美月は風に髪をなびかせ、遠くを見つめた。


「蓮。

民の声を聞くのも、指揮官の務めだ」


「??????

(今度は何!?貴族!?軍人!?)」


ブランコの鎖を剣に見立て、軽く一礼。


「案ずるな。

私は、ただの女ではない」


「それ前にも聞いたけど!

今回は方向が違う!!」


遊具の前で順番を抜かそうとした子には、静かにこう言った。


「規律を守れ。

それが自由を守る唯一の道だ」


なぜか全員が従った。

蓮は混乱したまま、砂場に座り込む。


「……もう何者か分からん……」


家に帰ると、事態はさらに進行する。

美月は自分の掛け布団を腰に巻き、即席のロングドレスを作った。

どう見ても寝具なのに、本人の中では“栄光のフィナーレ衣装”である。


「それでは皆様……

今宵の舞台に、感謝を」


三段しかない段差を、大階段のつもりでゆっくり降りる。


父・真人

「……また新しいフェーズ来たな」


春菜

「任侠より姿勢ええの、なんでか腹立つわ」


美月は一人、拍手を要求し、深々と礼をした。


「喝采を。

それが、舞台人への礼儀だ」


父母は顔を見合わせ、同時にため息をついた。


「……まあ、元気やし」

「そのうち終わるやろ」


だが、この“男装の麗人期”は意外と長かった。

美月はしばらく、気高い口調で過ごし、蓮を「副官」扱いし、しろくま先生には「心の友よ」と語りかけた。


そしてある日、祖父・清一がぽつりと言った。


「ええもん見たな、美月」


美月はうなずく。


「ああいう人になりたい。

強くて、優しくて、前に立つ人に」


清一は笑った。


「それでええ。

役は変わっても、芯は同じや」


後に、誰もが知ることになる。

任侠口調も、協和語も、お天気お姉さんも、男装の麗人も――

すべては“舞台の中央に立つための練習”だったのだと。


ツインテール姐さんは、今日も掴みどころがない。

だがその変幻自在さこそが、

やがて戦隊ヒロインとして、多くの人を惹きつけ、守る力になる。


まだ五歳。

けれどその背中には、すでに拍手が似合っていた。

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