ツインテール姐さん、河内音頭で足元から天下を取る
赤嶺美月、五歳。
任侠口調で啖呵を切ったかと思えば、怪しげな協和語で手品を始め、翌朝にはお天気お姉さんになる。
その変わり身の早さに、家族はもう驚かない。驚かないが、少しだけ心配にはなる。
中でも祖母の赤嶺花は、ある晩、縁側でぽつりとつぶやいた。
「……この子、地に足ついてるんやろか」
花は昭和の肝っ玉母さんだ。多少の奇行は笑って受け流す。だが孫が日替わりで人格を変えるのを見ると、「一回ちゃんとしたもん教えた方がええんちゃうか」という気にもなる。
そこで花が思いついたのが、自分の原点だった。
地元で長年続く「河内音頭保存会」。
翌週、美月はツインテールのまま、保存会の集会所に連れて行かれた。
中に入った瞬間、空気が濃い。太鼓の音、腹から出る掛け声、年季の入った足音。
美月は一瞬きょろきょろしたが、すぐに胸を張った。
「赤嶺美月です。
筋は通します」
保存会の面々が一斉に固まる。
「……何の筋や」
花が慌てて笑ってごまかした。
「まあまあ、踊らせてみてください」
最初は半信半疑だった。
だが音が鳴った瞬間、空気が変わった。
美月の足さばきが、異様にいい。
小さな体なのに重心が低く、無駄がない。
ドン、スッ、ドン、スッ。
足が音に吸い付くように動く。
「……この子、ええ足してるわ」
「なんやこの安定感」
美月は踊りながら、ひとこと言った。
「これ、筋通っとるな」
なぜか全員が深くうなずいた。
十分後、保存会の評価は手のひら返しだった。
「将来舞台立てるで」
「ツインテールで河内音頭て、新しすぎるやろ」
「保存会の未来見えたわ」
花は胸をなで下ろした。
「大丈夫や。この子、ちゃんと地面踏んどる」
美月は汗をぬぐい、満足そうに笑った。
「おばあちゃん、これ楽しいな。
音で足使うの、気持ちええ」
それからというもの、美月の特技に「河内音頭」が加わった。
任侠口調は相変わらず、協和語も健在だが、足元だけは妙に落ち着いた。
時は流れ、美月は大学生になる。
所属したチアリーディングサークルで、振り付けが煮詰まったある日、美月が手を挙げた。
「足さばき、河内音頭入れてみいひん?」
結果、チア×河内音頭という謎の融合が完成した。
観客は理由も分からず目を奪われる。
「なんか分からんけど、ずっと見てしまう」
「下半身の安定感えぐい」
さらに後年。
戦隊ヒロインとなった美月は、敵の攻撃を華麗なステップでかわし続ける。
河内音頭で鍛えた足運びが、戦場で生きた。
敵が叫ぶ。
「なぜ当たらん!」
美月は軽く笑った。
「足元が違うねん。河内仕込みや」
掴みどころのない美月は、今日も掴ませない。
だが――足元だけは、誰よりもしっかり地に着いている。
その安定感が、世界を翻弄する武器になるとは、誰も思っていなかった。




