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赤嶺美月の幼女任侠伝  作者: スパイク


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11/28

ツインテール姐さん、天気予報で三変化

東大阪の赤嶺家の朝は、だいたいいつも騒がしい。

だがこの日の騒がしさは、いつもと種類が違っていた。


テレビでは朝の情報番組が流れ、画面の中のお天気お姉さんが、にこやかに微笑んでいる。


「今日の東大阪は、日中はポカポカ陽気になりそうですね〜♪

洗濯物もよく乾きますよ〜」


その声に、ツインテールの少女がピクリと反応した。

赤嶺美月、五歳。

任侠口調に怪しげな協和語を自在に操る、東大阪の問題児である。


美月はテレビの前に立つと、しろくま先生をマイク代わりに抱え、急に声を一段高くした。


「は〜い♪

それでは今日の東大阪のお天気をお伝えしま〜す♪」


母・春菜の手が止まる。


「……え?」


美月は画面のお姉さんそっくりに、体を斜めにして続けた。


「今日はですね〜、とっても気持ちのいい晴れになりそうです〜♪

お外で遊ぶときは、帽子をかぶってくださいね〜♡」


春菜の目が見開かれる。


「……か、可愛い……!」


父・真人も新聞を下ろした。


「なあ……もしかしてやけど……

普通の女の子に戻りつつあるんちゃうか……?」


二人は顔を見合わせ、静かにうなずいた。

任侠だの協和語だのデコトラだのから、ようやく解放される日が来たのかもしれない。

その期待は、幼稚園まで持ち越された。


──が。


幼稚園の園庭。

蓮は美月の様子をうかがいながら、恐る恐る声をかけた。


「み、美月ちゃん……今日、声ふつうやな……?」


美月はにっこり笑い、両手を前で揃える。


「蓮くん♪

今日の天気は“えがお日和”ですよ〜♪」


蓮は固まった。


「……え?

え???」


先生も目を細める。


「美月ちゃん、すごく上手ねぇ。

テレビのお姉さんみたい」


春菜は遠くからその光景を見て、胸をなで下ろしていた。


「よかった……

やっと女の子らしい遊びに……」


その瞬間だった。


美月は急に表情を引き締め、声を低く落とした。


「……せやけどな」


空気が変わる。


「今日の空はな……

義理と人情がよう晴れとる空や……」


蓮の脳内に、でっかい「?」が浮かぶ。


「え……?」


美月は腕を組み、遠くを見る。


「油断したら、にわか雨みたいに

筋の通らんことが降ってくる。

そういう日もあるんや……」


先生が思わず叫んだ。


「戻った!戻ったよね今!!」


春菜は頭を抱える。


「お願い……戻らんといて……!」


だが美月は止まらない。


「せやから今日はな、

弱いもんは傘さして、

強いもんは風に逆らわんと歩くんや……」


「?????????」


園児たちは意味も分からず大爆笑だ。


さらに、美月は突然テンションを切り替えた。


「ソレデハ〜!

ココカラ、ヨクミル〜ネ〜?」


来た。

怪しげな協和語である。


「アラフシギ〜!

キョウハ、アツイケド〜、

ココロハ、スズシイヒ〜ネ〜!」


「もう何語なん!?!?」


美月は地面に描いた意味不明な丸と矢印を指差す。


「ココ、タコヤキ前線ネ〜。

コッチ、ドスコイ低気圧ネ〜?」


先生

「気象情報としては最悪やわ!!」


園庭は笑いの渦に包まれた。

手品は下手、予報はデタラメ、言葉は混線。

それでも、誰もが笑っていた。


家に帰ると、春菜が深いため息をつく。


「美月……

あんた、今日はどのキャラなん……?」


美月は真剣な顔で答えた。


「まだ決めてへん。

明日はな、

お天気お姉さん任侠バージョンか、

協和語ミックスでいくか、迷っとんねん」


真人

「一個にまとめる気は?」


美月

「ない」


即答だった。


しろくま先生に向かって、美月は小声で言う。


「先生……

空も人もな、いろんな顔あってええんや……」


しろくま先生は、今日も黙って聞いていた。


こうして、

任侠口調、協和語、爽やか天気キャスターを自在に行き来する

“ツインテール姐さん”は誕生した。


後に、戦隊ヒロインとして

誰よりも場を和ませ、

誰よりも空気を変え、

誰よりも人を笑顔にする存在になるその片鱗は、

この東大阪の朝に、確かに現れていた。


ただ一つ確かなのは──

赤嶺美月の天気予報は、

いつも「晴れ時々カオス」だった、ということだけである。

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