ツインテール姐さん、天気予報で三変化
東大阪の赤嶺家の朝は、だいたいいつも騒がしい。
だがこの日の騒がしさは、いつもと種類が違っていた。
テレビでは朝の情報番組が流れ、画面の中のお天気お姉さんが、にこやかに微笑んでいる。
「今日の東大阪は、日中はポカポカ陽気になりそうですね〜♪
洗濯物もよく乾きますよ〜」
その声に、ツインテールの少女がピクリと反応した。
赤嶺美月、五歳。
任侠口調に怪しげな協和語を自在に操る、東大阪の問題児である。
美月はテレビの前に立つと、しろくま先生をマイク代わりに抱え、急に声を一段高くした。
「は〜い♪
それでは今日の東大阪のお天気をお伝えしま〜す♪」
母・春菜の手が止まる。
「……え?」
美月は画面のお姉さんそっくりに、体を斜めにして続けた。
「今日はですね〜、とっても気持ちのいい晴れになりそうです〜♪
お外で遊ぶときは、帽子をかぶってくださいね〜♡」
春菜の目が見開かれる。
「……か、可愛い……!」
父・真人も新聞を下ろした。
「なあ……もしかしてやけど……
普通の女の子に戻りつつあるんちゃうか……?」
二人は顔を見合わせ、静かにうなずいた。
任侠だの協和語だのデコトラだのから、ようやく解放される日が来たのかもしれない。
その期待は、幼稚園まで持ち越された。
──が。
幼稚園の園庭。
蓮は美月の様子をうかがいながら、恐る恐る声をかけた。
「み、美月ちゃん……今日、声ふつうやな……?」
美月はにっこり笑い、両手を前で揃える。
「蓮くん♪
今日の天気は“えがお日和”ですよ〜♪」
蓮は固まった。
「……え?
え???」
先生も目を細める。
「美月ちゃん、すごく上手ねぇ。
テレビのお姉さんみたい」
春菜は遠くからその光景を見て、胸をなで下ろしていた。
「よかった……
やっと女の子らしい遊びに……」
その瞬間だった。
美月は急に表情を引き締め、声を低く落とした。
「……せやけどな」
空気が変わる。
「今日の空はな……
義理と人情がよう晴れとる空や……」
蓮の脳内に、でっかい「?」が浮かぶ。
「え……?」
美月は腕を組み、遠くを見る。
「油断したら、にわか雨みたいに
筋の通らんことが降ってくる。
そういう日もあるんや……」
先生が思わず叫んだ。
「戻った!戻ったよね今!!」
春菜は頭を抱える。
「お願い……戻らんといて……!」
だが美月は止まらない。
「せやから今日はな、
弱いもんは傘さして、
強いもんは風に逆らわんと歩くんや……」
蓮
「?????????」
園児たちは意味も分からず大爆笑だ。
さらに、美月は突然テンションを切り替えた。
「ソレデハ〜!
ココカラ、ヨクミル〜ネ〜?」
来た。
怪しげな協和語である。
「アラフシギ〜!
キョウハ、アツイケド〜、
ココロハ、スズシイヒ〜ネ〜!」
蓮
「もう何語なん!?!?」
美月は地面に描いた意味不明な丸と矢印を指差す。
「ココ、タコヤキ前線ネ〜。
コッチ、ドスコイ低気圧ネ〜?」
先生
「気象情報としては最悪やわ!!」
園庭は笑いの渦に包まれた。
手品は下手、予報はデタラメ、言葉は混線。
それでも、誰もが笑っていた。
家に帰ると、春菜が深いため息をつく。
「美月……
あんた、今日はどのキャラなん……?」
美月は真剣な顔で答えた。
「まだ決めてへん。
明日はな、
お天気お姉さん任侠バージョンか、
協和語ミックスでいくか、迷っとんねん」
真人
「一個にまとめる気は?」
美月
「ない」
即答だった。
しろくま先生に向かって、美月は小声で言う。
「先生……
空も人もな、いろんな顔あってええんや……」
しろくま先生は、今日も黙って聞いていた。
こうして、
任侠口調、協和語、爽やか天気キャスターを自在に行き来する
“ツインテール姐さん”は誕生した。
後に、戦隊ヒロインとして
誰よりも場を和ませ、
誰よりも空気を変え、
誰よりも人を笑顔にする存在になるその片鱗は、
この東大阪の朝に、確かに現れていた。
ただ一つ確かなのは──
赤嶺美月の天気予報は、
いつも「晴れ時々カオス」だった、ということだけである。




