小学生編②
その事件後、私の生活は一変した。
蓮先輩の仲間の子たちから、いじめられ始めたのだ。
その頃の私は、絵本や紙芝居が大好きで、よく読み聞かせの真似ごとを、図書室の秋月 和香子先生にしていた。
それは、あの出来事の前日も例外ではなかった。
1時間休み終了前10分のチャイムがなり、いつものこの言葉で読み聞かせを終える。
「今日のお話は、ここまで。また明日」
そして、急いで紙芝居を片付け、午後の授業に間に合うように教室へと向かっていき。なにごともなくその日を無事終えた。
その翌日。15分休みに、中庭で1人、おままごとをしている時。5年生くらいの見知らぬ男子に、あることを聞かれた。
「おい、10センチってどれくらいか知ってるか?」
最初は、私に言っているのかが分からずに無視をしたのだが、再度聞かれた際に「おい! そこの2ねん」と言われ、私以外2年生がその場に居なかったことで、私に言っていることが分かった。
すこし考えて、先輩の質問に答える。
「これくらい?」
なんで、この人は、見ず知らずの私にこんなことを言うのだろう。というか、本当に会ったことあったっけ。見たことないんだけど。だれ? この人。正直に言えば、そんなことを考えていた。
「じゃあ、1メートルは?」
「えーとね。こ~~~んぐらい!」
1メートルがどれくらいなんて、小学2年生の私は、知らなかったので、体で表現した。
すると先輩らしき男子は、クスクスと笑っていた。
結局。その男子が、誰かは分からないが、体格的に5年生くらいの人だったので、蓮先輩の同級生だとしたら、ヤバいと思って次々とされる質問に答えるしかなかった。
案の定。その男子は、蓮先輩の友達だということが、その後すぐに分かった。
なぜならば、その男子の元へと蓮先輩がやってきて、ヒソヒソと内緒話をした後。先輩が立ち去った瞬間に、ある行動を取り始めたからだ。
「10センチはこんぐらい、1メートルは、こ~~~んぐらい!」
私がやった事を、リピートし始めた彼を見て、さすがに、バカにされているのだと分かり、泣きそうな顔で、反撃をした。
「なんでそんなこというの?」
1メールを知らなかったとはいえ、私もあまり良くない言い方をしたのかもしれない。
しかし、見知らぬ男の子にそんなことを言われて、良い気持ちはしなかった。それが蓮先輩の指示であろうことは、子供ながらに分かったが、3歳上のお兄ちゃんたちをやっつけることなんて不可能だった。
「お前、障がい者やろ。障がい、障がい」
「10センチはこんぐらい、1メートルは、こ~~~んぐらい!」
「今日のお話は、ここまで。また明日」
私が黙っていると先輩はどんどん調子に乗る。昨日の会話も、彼らは見ていたのだ。いつイジメるか様子をうかがっていたのだろうと、今なら思える。
「違うもん、障がい者なんかじゃないもん!」
しかし、その時はこんな言葉しか出なかった。本当に悔しくてたまらなかった。そして、自然とその場に泣き崩れたが、誰も助けには来てくれなかった。
それから1週間後の放課後。久々に居残りがなかったので、友達と帰ろうとしているときに、山木先生に呼び出された。
私が、職員室へ行くと私を障がい者と呼んだ男子と、蓮先輩、そして5年1組の担任の熊谷 元太先生がいた。
「おら、謝れ」
熊谷先生は、そう言いながら蓮先輩たちを、私のほうへと引きずって、頭を下げさせた。
熊谷先生は、私がいじめられている一部始終を見ていたらしく、教頭先生と話を進めていたようだ。
だとしたら、泣いている時に助けて欲しかった。というのは、その場では言わなかったが、今は思う。
「すみませんでした」
2人は、声を揃えて謝罪の言葉を述べた。その言葉が、反省しているものではなかった。と、今なら思えるが、当時はそれが分からなかった。謝ったら許してくれるし、自分も許せるというのが私の考えだったのだ。
「ほんとうにすまなかったな」
熊谷先生も私に、謝罪の言葉を述べる。
「もう、いいよ」
そう言いながら、ニコッとして先輩たちの方を見た。私は、すこし優しすぎるところがあったのかもしれない。本来であれば、あそこまで盛大にいじめられたのだから、許せるはずがない。でも、この時は彼らを許すことにした。
それで、解決したとその時は思っていたが、今思えば、それが、それから先。私の人生における悲劇の始まりだったのかもしれない。




