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ハロウィン・オヤジフィーバー

作者: 蜂屋
掲載日:2025/10/31


「もしもし、親父?」

「うん、来週の日曜の夜。ハロウィンだからさ、

子供たち連れて、お菓子をもらいに行ってもいい?」

「お菓子は……あれで十分。

いつもくれる、せんべいとか。準備はいらないからさ」

「え、ご飯?……ああ、じゃあ、食べてこうかな」

「うん。じゃ、よろしく」


そう言って、俺は電話を切った。


3人の子供たちを、魔女やらゾンビやらに仮装させて。

小さな、ジャック・オ・ランタンのバケツを持たせて、

俺たちは、親父の家に向かった。



***



「トリック・オア・トリート!」


元気な子供たちの声に、

玄関の引き戸が、シャッと音を立てて開いた。


「はいはい、待ってたよ〜!」


現れた親父は──


なんと、

真っ黒なマントをひるがえし、満面の笑み。


……まさかの、ドラキュラ姿。


子供たちは手を叩いて、

「じいじ、すごーい!」と大はしゃぎ。


その親父が差し出したのは、

せんべいじゃなかった。


キャンディ、グミ、クッキーに──

なぜか、マシュマロのタワー。


「親父……これ全部、用意したのか?」


「おう。ハロウィンなんてよく知らねぇけどよ、

お前が買ってくれたスマホで、調べたんだ。

おまえたち、夕飯も用意してあるから、食ってけ」


──お袋が亡くなって、もう3年。


一人暮らしにもすっかり慣れて、

こんなふうに、孫のために準備してくれてるなんて。


……ちょっとだけ、胸が熱くなる。





「お邪魔しまーす!」


玄関を抜けて、茶の間に入った瞬間。

──俺は、息を呑んだ。


部屋中にひしめき合っていたのは、ジャック・オ・ランタン……ではなく、

赤提灯──夏祭りの夜を思い出す、あれだ。


壁には、ほおずきの房がずらり。


その真ん中に鎮座していたのは──仏壇だった。


……しかも、やたら豪華。


オレンジの生花に彩られた祭壇には、

見覚えのあるメンバーが並んでいた。


素麺。昆布。水の子。

みそはぎの花に、百味五果。


そして極めつけは──


ナスとキュウリに割り箸を刺した、精霊馬。


お袋の遺影の前に……12頭、整列していた。



うん、これは間違いない。


……お盆飾りだ。

お盆レベル、120。



「ハロウィンってよ、外国の盆みたいなもんだろ?」


いつもと違うじぃじの家に、ぴょんぴょん跳ね回って喜ぶ子供たち。

嬉しそうに笑う親父。


「写真とまったく同じっつーわけにはいかなかったけど、

まぁ……雰囲気だけな?」


……雰囲気どころの騒ぎじゃない。


親父……やりすぎだ。


その時だった。


親父が、カセットテープを持ち出してスイッチを押すと──

マントを脱ぎ捨てた。



……白装束。

……白足袋。

……三角巾。


「トリック・オア・トリート〜!」



孫たちは一瞬ぽかんとして──

……そして、爆発した。


「わあああーー!じいじ、おばけーー!!」


「ほんもの!?ほんもの来たー!!」


親父は、仏壇の前で、カセットテープから流れる「炭坑節」を満足気な顔で踊っていた。


三角巾を揺らしながら、

キュウリの馬にまたがる勢いで。


……そんな親父を見て。

──俺はもう、笑うしかなかった。


確かに、

ハロウィンは“死者の魂が帰ってくる日”だって聞く。


でも──


まさか、ここまで直訳されるとは。


完全翻訳版・和風ハロウィン。


騒ぐだけのイベントとして刷り込まれてた俺には、

それは、あまりにシュールな光景だった。





「さ、大したもんじゃねぇけど……食ってけ!」


親父が運んできた料理は、


かぼちゃの煮付け。

かぼちゃのコロッケ。

かぼちゃの味噌汁。


そして、かぼちゃゼリー。

……おまけに、漬物。


「……ぜんぶ、かぼちゃ?」


「近所の人から、山ほど貰ってよ。

そうだ、この赤提灯、町内会から借りてきたんだ。なんか、こんなんだったろ?」


……たしかに。

提灯もランタンも、照らすのが仕事だ。


この緑色のかぼちゃたちは、

ジャック・オ・ランタンにはなれないけど──

親父の手によって、美味しく生まれ変わった。


……それが、この家の“最適解”なんだ。


子供たちは、またしても大喜び。


かぼちゃを手づかみで頬張りながら、

「じいじ最高〜!」と笑っていた。


親父はその様子を、

ただただ、穏やかな顔で見つめていた。


──誰がなんと言おうと。

ブレーカーが心配になるほどひしめく、あの赤提灯たちこそ、

この日の“ジャック・オ・ランタン”だったのだ。





食後、俺は、

小さな、プラスチックのかぼちゃバケツを、

親父にそっと手渡した。


「これ、貰ってよ」


親父は頷くと、それを手に持ち、

静かに仏壇へと向かう。


ナスとキュウリの精霊馬の間。

お袋の遺影の前に、

その小さなかぼちゃを、ぽんと置いた。


そして、手を合わせる。


……うれしそうに。


それから毎年、

お盆になると──


ナスとキュウリの隣に、

ちいさな、かぼちゃのランタンが並ぶようになった。


お袋はきっと、

キュウリの馬が引く、かぼちゃの馬車に乗って。


来年の盆と、このハロウィンの日に、

この家に、帰ってくるんだろう。


親父。

ありがとう。


……そのままで、いい。


……どうか──長生きしてくれよな。


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