第五章:理解と受容
数週間が過ぎ、風音は少しずつ変わっていった。朝はきちんと起き、朝食を取り、規則正しい生活を心がけるようになった。スマートフォンの使用時間も減らし、夜は早く寝るようにした。
体育の授業では、以前よりも積極的に参加するようになった。胸の大きさを気にして走るのを避けていたが、今は適切なスポーツブラをつけて、姿勢にも気をつけながら走れるようになった。
放課後、風音は古い友人の美咲と帰り道を共にしていた。
「風音ちゃん、最近変わったね。肌つやつやだし、なんか元気になった?」
風音は少し照れながら答えた。「ちょっと生活習慣を見直したんだ。」
そのとき、美咲が溜息をついた。
「うらやましいなぁ……胸大きくて。私なんて、まな板だもん……」
風音は少し驚いた。
「え? でも、その方がいいこともあるよ。肩凝らないし、走りやすいし……」
「でも、男子からモテるでしょ? 南くんとか、風音のこといつも見てるじゃん。」
風音は複雑な表情になった。クラスメイトの南くんが自分を見ていることは知っていた。
でも、それが単に胸を見ているだけなことがわかっていたから、全然嬉しくはなかった。
「見られるのは、正直言って嫌なときもあるよ。自分の体のパーツだけを見られている気がして。あたしが人間として見られていない感じがする。」
「そっか……」美咲は少し考え込んだ。「私はてっきり、うらやましいことばかりだと思ってた。」
「どんな体でも、その人なりの悩みがあるんだよね。」風音は空を見上げながら言った。「完璧な体なんてないんだと思う。」
風音と美咲は駅前で別れ、風音は一人で帰路についた。内臓たちも静かだった。彼女の言葉に、何か感じるものがあったのかもしれない。
その夜、風音は鏡の前に立っていた。
「みんな、聞いてほしいことがあるの。」
内臓たちが静かになった。
「私、自分の体のことを少し理解できたかも。確かにおっぱいが大きいことで不便なこともあるけど、それは私の一部なんだよね。どんな体でも、その人なりの悩みがあるんだって気づいたの。」
「素晴らしい気づきね。」脳が言った。「自己受容は精神的健康の重要な要素よ。」
「それに、私の体の一部を否定することは、みんなを否定することになるんだよね。みんなは一生懸命働いてくれてるのに、それを責めるのはおかしいよね。」
「感動した……」心臓が鼓動を早めた。
「これからは、もっと自分の体を大切にしたいと思う。それに、自分の体のことを知るのも面白いし。みんなは私の一部で、私はみんなの集合体なんだよね。」
「そのとおり!」全ての臓器が一斉に声を上げた。
「あ、でも一つだけ言っておくよ。」風音は少し厳しい表情になった。「痴漢に遭うのは、私の体のせいじゃない。それは加害者が悪いんだ。だから自分を責めないようにする。」
「その通りよ。」脳が誇らしげに言った。「その認識は非常に重要なことだわ。」
風音は微笑んだ。内臓の声が聞こえるようになったのは、最初は戸惑ったけれど、今は感謝している。自分の体と向き合い、対話することで、自分自身をもっと理解できるようになった気がする。
「あのね、みんな。ありがとう。私の体の声を聞かせてくれて。これからも一緒に、健康で幸せな人生を送ろうね。」
内臓たちが喜びの声を上げる中、風音はベッドに横になった。今夜はきっと、いい夢が見られるだろう。