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【内臓擬人化ドタバタ短編小説】声なき声を聴く少女 ~私のなかの小さな宇宙」 ~  作者: 霧崎薫
内なる声 - 赤い月のささやき

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第九章:共にある流れ

 南の誕生日会の日、風音は緊張しながら準備をしていた。


「どれにしようかな……」


 風音は鏡の前で何度も服を着替えた。カジュアル過ぎず、かといってフォーマル過ぎず、ちょうどいいバランスを探している。


「心拍数が上昇していますね。」心臓が言った。「緊張しているようですが、これは正常な反応です。」


「わかってるよ。」風音は小さく笑った。「でも、初めて南くんの家族に会うんだもん。」


 最終的に、風音は淡いピンクのブラウスに白のスカートというコーディネートに決めた。母親と選んだ手土産??地元の有名な和菓子の詰め合わせ??を持って家を出る。


 南の家に向かう電車の中で、風音は自分の生理周期について考えていた。現在は排卵期が終わりに近づき、黄体期に入ろうとしている頃だ。


「この時期は、黄体ホルモンであるプロゲステロンの分泌が増加します。」卵巣が説明した。「排卵後の黄体から分泌されるこのホルモンは、子宮内膜をさらに厚くし、受精卵の着床に備えるよう促すのよ。」


「ホルモンの変化で気分も影響を受けることがあるわね。」脳が付け加えた。「でも、個人差が大きいから、必ずしも変化を感じるとは限らないわ。」


 風音は自分の体の状態をじっくりと感じてみた。確かに少し疲れやすく感じるかもしれないが、特に大きな変化はない。それでも、自分の周期のこの段階を意識していることで、より自分自身を理解できている気がした。


 南の家に着くと、彼が笑顔で出迎えてくれた。


「来てくれてありがとう、風音。」


「お邪魔します。」風音は少し緊張した様子で言った。「あ、これ、手土産。お母さんと選んだんだけど。」


「わあ、ありがとう!」南は嬉しそうに受け取った。「中に入ろう。みんな待ってるよ。」


 リビングに入ると、南の両親と妹、そして友人二人が笑顔で迎えてくれた。


「風音ちゃん、いらっしゃい。」南の母親が温かく挨拶した。「息子からよく聞いてるのよ。」


「はじめまして。十和田風音です。よろしくお願いします。」風音は丁寧にお辞儀をした。


「私は南泉。翔太の妹です!」中学一年生の少女が元気に自己紹介した。「前に教えてくれたアドバイス、すごく役に立ちました! ありがとうございます!」


 風音は少し照れながらも、「どういたしまして」と答えた。南の妹が思っていたより活発で明るい子だということに少し驚いた。


 誕生日パーティーは和やかな雰囲気で進んだ。手作りのケーキを囲んで、南が17歳の誕生日を祝う。プレゼントを開ける時間になり、風音が選んだブレスレットを南が手に取った。


「風音、これ……」南は目を輝かせた。「すごく気に入った! ありがとう!」


 彼はすぐにブレスレットを手首に巻いた。シンプルな革のブレスレットは、南の雰囲気にぴったりだった。


 食事の後、風音は台所で南の母親の手伝いをしていた。


「風音ちゃん、翔太の話を聞くと、とても思いやりのある子なのね。」南の母親が言った。「妹のこともよく気にかけてくれて、感謝してるわ。」


「いえ、私は当たり前のことをしただけです。」風音は謙虚に答えた。


「いいえ、当たり前じゃないのよ。」母親は真剣な表情で言った。「女性の体について話すことが、まだまだタブー視されている面があるでしょう。泉は中学に入ったばかりで、同級生に相談するのも難しかったみたい。でも、風音ちゃんのアドバイスで、随分楽になったのよ。」


 風音はその言葉に少し驚いた。確かに、小さなアドバイスではあったが、それが泉にとって大きな助けになったと知り、嬉しく思った。


「実は私も、最近自分の体についてもっと知ろうと思って勉強してるんです。」風音は正直に言った。「自分の周期を理解することで、もっと自分自身を大切にできるかなって。」


「素晴らしいわ。」南の母親は微笑んだ。「若い世代がそういう意識を持っていると、私たちも安心できるわ。」


 その日の夕方、パーティーが終わり、南が風音を駅まで送ってくれることになった。二人は夕暮れの中、並んで歩いた。


「家族、みんないい人だったね。」風音は言った。


「うん、気に入ってもらえてよかった。」南は少し照れくさそうに言った。「特に妹は、風音のこと本当に尊敬してるみたいだよ。」


「そう言ってもらえると嬉しいな。」風音は微笑んだ。


 二人は駅のホームで別れる時、南がそっと風音の手を握った。


「また会おうね。」


「うん、また。」風音は頬を赤らめながら答えた。


 電車に乗り込み、窓から南に手を振る。彼も笑顔で手を振り返した。


 帰りの電車の中で、風音は今日一日を振り返っていた。南の家族との出会い、特に妹の泉との交流は、彼女に新たな視点を与えてくれた。自分の知識や経験が、他の女の子の役に立つということ。それは予想外の喜びだった。


「他者に知識を共有することは、社会的な繋がりを強める重要な行為よ。」脳が静かに言った。「特に女性の健康のような話題は、世代を超えて共有される必要があるわ。」


「そうだね。」風音は心の中で答えた。「私も誰かから学んだことを、また次の人に伝えていきたい。」


 家に着くと、母親が待っていた。


「どうだった?」真理子が尋ねた。


「とても良かったよ。」風音は笑顔で答えた。「南くんの家族、みんないい人だった。特にお母さんとはたくさん話したよ。」


「そう、よかったわね。」真理子は嬉しそうに言った。「手土産は喜んでもらえた?」


「うん、すごく。ちゃんと出してくれたよ。」


 風音は自分の部屋に戻り、スマートフォンを取り出した。生理管理アプリを開き、今日の体調や気分をメモする。排卵期が終わり、黄体期に入ったことを記録しておく。


 そして、南からメッセージが届いた。「今日は来てくれてありがとう。みんな風音のこと気に入ってたよ。特に妹はずっと興奮してた。また会おうね。」


 風音は笑顔でメッセージに返信した。「私も楽しかったよ。家族みんなによろしく伝えてね。特に泉ちゃんには。」


 日記を書きながら、風音は自分の身体の周期と、人間関係の発展が奇妙に重なっていることに気づいた。排卵期に南との関係が進展し、今は黄体期に入り、彼の家族との繋がりも生まれた。まるで、彼女の体と心の成長が、同調しているかのようだった。


「体と心は常に影響し合っているのよ。」脳が言った。「それは決して偶然ではなく、あなたという一つの存在の調和なの。」


 風音はペンを置き、窓の外を見た。月は徐々に欠けていく段階に入っていた。それはちょうど、彼女の体が次の生理に向かって準備を始めるタイミングと重なる。自然のリズム、体のリズム、そして人生のリズム。それらが織りなすハーモニーの中で、風音は自分自身を深く感じていた。


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